構音障害の「歪み」とは?
「『し』の音が何となく変に聞こえます。」
「別の音に言い間違えているわけではないのに、不自然な発音です。」
子どもの構音障害では、本来の音が別の音に変わる「置換」や、音が抜ける「省略」だけでなく、正しい音とも別の日本語の音とも言いにくい、不自然な発音になることがあります。
このような発音の誤りを「歪み」といいます。
歪みは、舌の位置や息の流れなどが本来の発音方法と異なることで生じることがあり、側音化構音などの特徴的な発音としてみられる場合があります。
この記事では、構音障害の「歪み」とは何か、置換や省略との違い、代表的な発音、相談の目安について、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
「歪み」とは?
歪みとは、本来発音する音が不自然に変化し、正しい音とも他の日本語の音とも言いにくい状態です。
例えば、「し」を発音しているものの、普通の「し」とは異なる独特の音に聞こえる場合があります。
このとき、「し」が「ち」など別の音に明確に変わっているわけではありません。
音そのものの質が崩れていることが歪みの特徴です。
「置換」との違い
置換では、本来の音が別の日本語の音へ変わります。
例えば、「さかな」→「たかな」では、「さ」が「た」に変わっているため置換です。
一方、歪みでは「さ」や「し」が別の音に変わるのではなく、どの日本語の音とも言いにくい不自然な音として聞こえます。
つまり、
- 置換:別の音になる
- 歪み:音そのものが不自然になる
という違いがあります。
「省略」との違い
省略は、本来ある音そのものが抜ける発音です。
それに対して、歪みでは音は出ていますが、その音が正しくありません。
整理すると、
- 置換:別の音へ変わる
- 省略:音がなくなる
- 歪み:不自然な音になる
となります。
この3つを区別することは、構音の状態を評価するうえでとても重要です。
なぜ歪んだ音になるの?
発音するときには、舌や唇の位置だけでなく、息をどこからどのように出すかも重要です。
例えば「さ」や「し」では、舌と口蓋の間に細い隙間をつくり、そこへ息を流して摩擦音をつくります。
舌の位置がずれたり、息が本来と異なる方向へ流れたりすると、正しい音ではなく独特の歪んだ音になることがあります。
「さ行」「し」「ち」「じ」などでみられることがある
歪みは、舌や息の細かな調整が必要な音でみられることがあります。
特に、
- さ行
- し
- ち
- じ
などで気付かれることがあります。
ただし、歪みがみられる音や程度は子どもによって異なります。
側音化構音とは?
歪みとして代表的なのが側音化構音です。
側音化構音では、発音するときの舌の形や息の流れが本来と異なり、息が舌の側方から流れることがあります。
特に、
- 「し」
- 「ち」
- 「じ」
などでみられることがあります。
聞いた印象としては、日本語の別の音へはっきり置き換わるというより、独特に濁ったような、こもったような音に感じることがあります。
口蓋化構音も歪んで聞こえることがある
口蓋化構音では、本来より舌の奥を使って発音します。
そのため、「た行」や「さ行」などが、本来とは異なる独特の音に聞こえることがあります。
口蓋化構音は口蓋裂のある子どもにみられることがありますが、明らかな器質的問題がない子どもにもみられる場合があります。
歪みは発達途中でもみられる?
幼児期には発音が未熟なため、不明瞭な音がみられることがあります。
ただし、一般的な発音発達では「さ→た」のような置換がみられることが多く、特徴的な歪みは通常の発達パターンとは異なる場合があります。
そのため、独特の歪みが続いている場合は、年齢だけで「そのうち治る」と判断せず、一度専門家に相談してみることも大切です。
自然に治ることもある?
軽い不明瞭さが成長とともに改善することはあります。
一方で、側音化構音などのように、誤った舌の使い方が習慣として定着している場合は、自然には改善しにくいことがあります。
誤った構音方法を長く使い続けるほど、その方法が本人にとって「いつもの発音」になることもあります。
そのため、特徴的な歪みが続いている場合には、専門的な評価を受けることが大切です。
本人は間違いに気付いていないこともある
歪みのある子どもは、自分では正しく発音しているつもりのことがあります。
長く同じ方法で発音していると、その音が本人にとって当たり前になっているためです。
そのため、単に「違うよ」「もっときれいに言って」と伝えても、どう直せばよいのか分からないことがあります。
家庭で何度も言い直させない
発音の歪みが気になると、保護者は何度も言い直させたくなるかもしれません。
しかし、正しい舌の位置や息の出し方が分かっていない状態で繰り返しても、歪んだ発音を何度も練習してしまうことがあります。
また、発音を頻繁に注意されることで、子どもが話すことを嫌がる可能性もあります。
家庭ではまず会話を楽しみ、具体的な練習が必要な場合は専門家から方法を教えてもらいましょう。
構音訓練では何をする?
歪みに対する構音訓練では、単に単語を何度も繰り返すのではなく、正しい音のつくり方そのものを身につけることが大切です。
例えば、
- 正しい音と歪んだ音を聞き分ける
- 舌の位置を確認する
- 息を出す方向を練習する
- 一音で正しく発音する
- 単語で練習する
- 文で練習する
- 会話の中で自然に使う
など、段階的に進めます。
どのような歪みがあるかによって、練習方法は異なります。
鏡を使うこともある
構音訓練では、鏡を使って舌や口の動きを確認することがあります。
子ども自身が「正しいときの口の形」と「いつもの発音」の違いを理解しやすくするためです。
ただし、音によっては舌の重要な部分が外から見えないこともあるため、鏡だけで練習できるわけではありません。
発音以外の原因がないかも確認する
歪みがある場合でも、必ず機能性構音障害とは限りません。
例えば、
- 口蓋裂
- 歯並びやかみ合わせの問題
- 舌や口腔内の形態的問題
- 聞こえの問題
などが発音に関係していることがあります。
そのため、特徴的な歪みがある場合には、構音だけでなく口腔内や聞こえなども必要に応じて確認します。
いつ相談したらいい?
次のような場合は、一度専門家へ相談してみるとよいでしょう。
- 独特の歪んだ発音が続いている
- 「し・ち・じ」などが不自然に聞こえる
- 年齢が上がっても改善しない
- 家族以外には発音が伝わりにくい
- 本人が発音を気にしている
- 就学を控えている
相談したからといって、必ずすぐに訓練を始めるわけではありません。
評価したうえで、経過をみる場合もあります。
言語聴覚士は何を確認する?
言語聴覚士(ST)は、歪みのある音だけでなく、発音全体を詳しく評価します。
例えば、
- どの音が歪んでいるか
- どのような音に聞こえるか
- 舌をどこで使っているか
- 息がどの方向へ流れているか
- 単語のどの位置で歪むか
- 会話でも同じ歪みがみられるか
- 口腔内に問題がないか
などを確認します。
必要に応じて、耳鼻咽喉科や歯科などと連携することもあります。
「伝わるから大丈夫」とは限らない
歪みが軽い場合、家族や友達との会話には大きな問題がないこともあります。
そのため、「意味は伝わっているから問題ない」と考えることもあるでしょう。
しかし、本人が発音を気にしていたり、特定の音だけが長く歪んでいたりする場合には、今後のコミュニケーションを考えて評価を受けることも一つの選択肢です。
発音の明瞭さだけでなく、本人が困っているかどうかも大切です。
まとめ
構音障害の「歪み」とは、本来の音が別の日本語の音へ置き換わるのではなく、正しい音とも別の音とも言いにくい、不自然な発音になることです。
「別の音になる」置換や「音が抜ける」省略とは異なり、歪みでは音そのものの質が変化します。
代表的なものには側音化構音や口蓋化構音などがあり、舌の位置や息の流れが本来とは異なることで生じることがあります。
特徴的な歪みが長く続いている場合や、本人が発音を気にしている場合には、何度も家庭で言い直させるのではなく、言語聴覚士などの専門家へ相談し、正しい構音方法を確認することが大切です。

