構音障害の「省略」とは?
「ことばの一部が抜けて聞こえます。」
「音を言わずに飛ばしてしまうのは、構音障害なのでしょうか?」
子どもの発音では、本来あるはずの音が抜けてしまうことがあります。このような誤りを**「省略」**といいます。
省略は、構音障害でみられる代表的な誤り方の一つですが、小さな子どもの発音発達の途中でもみられることがあります。
そのため、省略があるからといって、すぐに構音障害と判断するわけではありません。
この記事では、構音障害の「省略」とは何か、どのような例があるのか、置換との違いや相談の目安について、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
「省略」とは?
省略とは、本来発音するはずの音を発音せず、抜かしてしまうことです。
例えば、単語に含まれる子音の一部が抜け、本来よりも短い発音になることがあります。
子ども本人はきちんと言っているつもりでも、聞いている側には一部の音が抜けて聞こえることがあります。
どのような発音になる?
省略では、単語の中にある音の一部が消えます。
例えば、本来複数の音からできている単語で、特定の子音が抜けることで、ことば全体が簡単な形になることがあります。
省略する音が少なければ家族には伝わることもありますが、多くの音が抜けると、初めて聞く人には何を言っているのか分かりにくくなることがあります。
「置換」とは何が違う?
省略と似た発音の誤りに「置換」があります。
置換は、本来の音が別の音に変わる誤りです。
例えば、「さかな」→「たかな」では、「さ」が「た」に変わっているため置換です。
一方、省略では、本来ある音が別の音になるのではなく、その音自体が発音されません。
つまり、
- 置換:別の音に変わる
- 省略:音そのものが抜ける
という違いがあります。
「歪み」とも違う
もう一つ代表的な誤り方に「歪み」があります。
歪みでは、日本語にある別の音へ変わるのではなく、正しい音とも別の音とも言いにくい独特の発音になります。
省略では音がなくなり、置換では別の音になり、歪みでは不自然な音になります。
この違いを確認することは、構音の状態を評価するうえで重要です。
なぜ音を省略するの?
小さな子どもにとって、ことばを正確に発音することは簡単ではありません。
発音には、舌や唇、あごなどを素早く動かし、音を次々と切り替える必要があります。
難しい音や複雑な音の並びでは、子どもが発音しやすい形に単純化し、その結果として一部の音を省略することがあります。
これは発音を身につけていく過程でみられることがあります。
小さな子どもでは自然にみられることもある
乳幼児期には、まだすべての音を正確に発音できないため、音の置換や省略がみられることがあります。
成長して舌や唇を細かく動かせるようになり、ことばの音の仕組みを身につけていくと、徐々に省略が減っていくことがあります。
そのため、年齢が低い子どもの省略を、すぐに異常と考える必要はありません。
省略が多いとことばが伝わりにくくなる
省略する音が一つだけであれば、前後の文脈から意味を推測できることがあります。
しかし、複数の音が頻繁に抜ける場合には、単語の形そのものが大きく変わってしまいます。
その結果、
- 家族には分かるが他の人には伝わらない
- 保育園や幼稚園で聞き返される
- 本人が何度も言い直す
- 友達との会話で困る
といったことにつながる場合があります。
いつも同じ音を省略することもある
構音の誤りには、一定の規則性がみられることがあります。
例えば、特定の種類の子音だけが抜けたり、単語のある位置にある音を省略しやすかったりすることがあります。
言語聴覚士は、一つの単語だけを見るのではなく、複数の単語で同じような誤りが起きているかを確認します。
単語の長さによって省略が増えることもある
短い単語では正しく言えても、長い単語になると一部の音が抜けることがあります。
音の数が増えるほど、舌や唇の動きを順番に切り替える必要があるため、子どもにとって発音の負担が大きくなるからです。
そのため、
- 一音
- 短い単語
- 長い単語
- 文
- 会話
など、課題の長さによって省略の出方が変わることがあります。
省略があるときに確認したいこと
省略がみられる場合は、単に「音が抜けている」だけを見るのではなく、いくつかのポイントを確認します。
例えば、
- 子どもの年齢
- どの音が省略されるか
- どのくらい頻繁に起こるか
- 単語のどの位置で起こるか
- ことば全体の聞き取りやすさ
- 他の発音の誤りもあるか
などです。
こうした情報を合わせて、発達途中としてみられる範囲なのか、専門的な評価が必要なのかを考えます。
聞こえにくさが関係することもある
発音を身につけるためには、周囲の音声を聞き分けることも大切です。
聞こえにくさがある場合、ことばの細かな音を十分に聞き取れず、発音の獲得に影響することがあります。
省略が多い場合や、言葉の発達にも気になる点がある場合には、必要に応じて聴力について確認することも重要です。
言葉の発達全体を見ることも大切
発音の省略が多い子どもの中には、発音だけでなく、言葉そのものの発達について確認が必要な場合もあります。
例えば、使える単語が少ない、文章が短い、言葉を理解することにも難しさがあるなど、他の特徴がみられることがあります。
そのため、発音だけを切り離して考えるのではなく、言葉やコミュニケーション全体を確認することが大切です。
家庭で何度も言い直させる必要はない
子どもが音を省略すると、「ちゃんと言って」「もう一回」と何度も言い直させたくなることがあります。
しかし、まだ正しい発音方法を身につけていない場合、何度繰り返しても同じ省略が起こることがあります。
頻繁に言い直しを求められると、子どもが話すことを嫌がる可能性もあります。
家庭では、まず子どもの伝えたい内容を受け止め、楽しく会話することを大切にしましょう。
正しい言い方を自然に聞かせる
子どもの発音が省略されていても、意味が分かった場合は、自然な会話の中で正しい発音を返してあげることができます。
例えば、子どもが一部の音を省略して「○○!」と伝えたときに、「そうだね、○○だね」と自然に正しい言い方を聞かせます。
無理に復唱させる必要はありません。
正しい音声を聞く機会を作りながら、会話そのものを楽しむことが大切です。
構音訓練ではどのように練習する?
専門的な構音訓練が必要と判断された場合は、子どもの省略の特徴に合わせて練習を行います。
例えば、
- 省略している音を聞き分ける
- 正しい音を単独で発音する
- 短い単語で練習する
- 徐々に長い単語へ広げる
- 文の中で練習する
- 日常会話で使えるようにする
など、段階的に進めます。
子どもの状態によって方法は異なるため、家庭だけで自己流の練習を進めるより、必要に応じて専門家へ相談することが大切です。
いつ相談したらいい?
省略がある場合でも、相談のタイミングは年齢だけでは決まりません。
例えば、
- 同年代と比べて発音がかなり不明瞭
- 多くの音が省略されている
- 家族以外には伝わりにくい
- 年齢が上がっても省略が続いている
- 本人が発音を気にしている
- 言葉の発達にも気になる点がある
といった場合は、一度専門家へ相談してみるとよいでしょう。
相談した結果、すぐ訓練するのではなく、経過をみる場合もあります。
言語聴覚士は何を確認する?
言語聴覚士(ST)は、さまざまな単語や会話を通して子どもの発音を確認します。
例えば、
- どの音が省略されるか
- 省略に規則性があるか
- 単語のどの位置で起こるか
- 単語の長さで変化するか
- 置換や歪みもみられるか
- 会話がどの程度伝わるか
などを評価します。
必要に応じて、舌や唇の動き、聞こえ、言葉の発達なども確認します。
どこに相談すればいい?
子どもの発音の省略が気になる場合は、地域によって異なりますが、
- 言語聴覚士がいる医療機関
- 耳鼻咽喉科
- 小児科
- 児童発達支援施設
- 自治体の発達相談
- ことばの教室
などで相談できる場合があります。
「相談するほどなのか分からない」という段階でも、気になることがあれば一度確認してもらうと安心につながります。
まとめ
構音障害の「省略」とは、本来発音するはずの音を発音せず、抜かしてしまうことです。
「別の音に変わる」置換とは異なり、省略では音そのものがなくなります。
小さな子どもでは発音の発達途中として省略がみられることもありますが、多くの音が抜ける、年齢が上がっても続く、家族以外には伝わりにくいといった場合には、専門的な評価を受けることを検討します。
発音を何度も言い直させるのではなく、まずは子どもが安心して話せることを大切にしながら、必要に応じて言語聴覚士などの専門家へ相談してみましょう。

