単音から単語へ発音を広げるには?
「『さ』だけなら上手に言えるのに、『さかな』になると『たかな』に戻ってしまいます」
構音訓練では、このようなことは珍しくありません。
一つの音を正しく発音できるようになっても、その音をすぐに単語の中で使えるとは限らないからです。
そのため、正しい単音が安定してきたら、言いやすい単語から始め、少しずつさまざまなことばへ正しい発音を広げていきます。
この記事では、単音で獲得した正しい発音を単語へ広げる方法について解説します。
「一音で言える」と「単語で言える」は違う
例えば「さ」を練習している子どもが、
「さ」だけなら正しく言えるようになったとします。
しかし、「さかな」と言った途端に、「たかな」へ戻ってしまうことがあります。
これは、単語になると「さ」以外の音も続けて発音しなければならないためです。
単音よりも単語の方が発音の動きが複雑になります。
まず単音をある程度安定させる
正しい音が一度だけ出た段階で、たくさんの単語を練習する必要はありません。
まずは目的となる音をある程度安定して出せるようにします。
例えば「さ」であれば、
「さ」
「さ」
「さ」
と数回発音しても、大きく崩れない状態を目指します。
ただし、完全に100%安定するまで単語へ進めないという意味ではありません。
言いやすい単語から始める
単語練習では、何でもよいから目的の音が入っている単語を選ぶわけではありません。
同じ「さ」が入った単語でも、前後の音によって言いやすさが変わることがあります。
そのため、最初は子どもが比較的正しく言いやすい単語を選びます。
成功しやすい単語から始めることで、正しい発音を単語の中でも定着させやすくなります。
最初は短いことばを使う
訓練初期には、長い単語より短い単語の方が取り組みやすいことがあります。
長いことばになるほど、複数の音を連続して発音しなければならないためです。
まず短い単語で正しい音を維持できるようにし、徐々に長い単語へ進めます。
単語の最初にある音から練習することもある
例えば「さ」を練習する場合、
- さる
- さかな
- さくら
など、「さ」から始まる単語を使うことがあります。
単語を言い始める前に目的となる音を意識しやすいためです。
ただし、必ず語頭から始めるわけではありません。
子どもによっては単語の途中にある方が発音しやすい場合もあります。
単音と単語の間に段階をつくる
単音から単語へ急に進むと難しい場合には、その間に小さな段階をつくります。
例えば、
「さ」
↓
「さー」
↓
「さ……かな」
↓
「さかな」
というように、最初は目的となる音を意識しやすくします。
正しく言えるようになってきたら、徐々に自然な発音へ近づけます。
最初はゆっくり発音する
単語になると誤りが戻る場合、最初はゆっくり発音することがあります。
速く言おうとすると、これまで使っていた発音方法へ戻りやすいためです。
正しい舌の位置や息の流れを確認しながらゆっくり発音し、安定してきたら自然な速さへ近づけます。
言語聴覚士の後に続いて言う
最初は言語聴覚士が、
「さかな」と見本を示し、子どもが続いて発音する方法があります。
これを復唱といいます。
見本を聞いた直後であれば、正しい音を意識しやすくなります。
復唱で安定してきたら、見本なしで自分から単語を言う練習へ進めます。
絵カードを使って自分から言う
構音訓練では、絵カードを使うこともあります。
例えば魚の絵を見せて、「これは何?」と質問します。
子どもが自分から、「さかな」と言えるか確認します。
見本をまねするだけでなく、目的となる音を自分で思い出して使う必要があるため、復唱より少し難しくなります。
同じ音をさまざまな単語で練習する
「さかな」だけ正しく言えるようになっても、ほかの「さ」が言えるとは限りません。
そこで、
- さる
- さくら
- さいふ
- やさい
- うさぎ
など、さまざまな単語へ広げていきます。
練習した一つの単語を暗記するのではなく、「さ」という音の正しい発音方法そのものを身につけることが目的です。
単語の中の位置を変える
正しい音が使えるようになってきたら、単語の中での位置も変えます。
例えば、
語頭:「さかな」
語中:「うさぎ」
などです。
日本語では対象となる子音が単語のどの位置にあるかによって、前後の音の条件も変わります。
さまざまな条件で正しく発音できるようにしていきます。
前後の音によって難しさが変わる
同じ音でも、前後にどの音があるかによって発音の難しさが変わることがあります。
ある単語では簡単に言えるのに、別の単語では間違えることも珍しくありません。
そのため、最初から難しい単語を繰り返すのではなく、
言いやすい単語 → 少し難しい単語
という順番で進めます。
正しく言えた単語を増やしていく
最初は数個の単語から始め、安定してきたら練習する単語を増やします。
例えば、
5個程度の単語
↓
別の単語を追加
↓
さらにさまざまな条件の単語へ
というように広げます。
ただし、必要な単語数は子どもによって異なります。
間違えたら一度単音へ戻る
単語で以前の発音へ戻ってしまった場合には、無理に何度も繰り返す必要はありません。
例えば「さかな」が「たかな」になったら、「もう一度『さ』だけ言ってみよう」と単音へ戻ります。
正しい「さ」を確認してから、再び「さかな」へ挑戦します。
単音と単語を行き来しながら練習することも大切です。
自分で間違いに気付けるようにする
訓練が進んできたら、「今の『さかな』はどうだった?」と子ども自身に確認してもらうことがあります。
最初は言語聴覚士が正誤を伝えますが、徐々に自分で判断できることを目指します。
自分で、「今は『たかな』になった」と気付ければ、自分から言い直せるようになります。
練習していない単語でも言えるか確認する
ある程度単語練習が進んだら、それまで練習していなかった単語でも正しく発音できるか確認します。
例えば「さかな」「さる」「さくら」を練習した後、初めて「サンダル」を言ってもらいます。
練習していない単語でも正しく発音できれば、正しい音の使い方が広がってきていると考えられます。
これを「般化」という
訓練した発音が、直接練習していないことばにも広がっていくことを般化といいます。
構音訓練では、「練習した10個の単語だけ正しく言える」ことが目標ではありません。
新しい単語でも同じ発音方法を使えるようになることが重要です。
般化が進んできたら、次は文章や会話へ正しい発音を広げていきます。
単語が安定したら文章へ
さまざまな単語で正しい発音ができるようになったら、
「さかなが泳いでいる」「うさぎを見つけた」など、短い文章へ進みます。
単語だけを発音するより、文章の中で正しい音を維持する方が難しくなります。
そのため、単語で十分に成功経験を積んでから次の段階へ進みます。
家庭では指定された単語を練習する
家庭練習を行う場合には、言語聴覚士から指定された単語を使うとよいでしょう。
目的となる音が入っていれば、どんな単語でもよいとは限りません。
まだ難しい音の並びを家庭で繰り返すと、誤った発音を練習してしまうことがあります。
まずは訓練で正しく言えた単語を中心に、短時間練習します。
単音から単語への基本的な流れ
大まかには、
単音を正しく発音する
↓
言いやすい短い単語で練習する
↓
復唱で正しく言う
↓
絵などを見て自分から言う
↓
さまざまな単語へ広げる
↓
練習していない単語でも使う
↓
文章へ進む
という流れになります。
実際には子どもの状態に合わせて、前の段階へ戻ったり、一部を省いたりしながら進めます。
まとめ
一音で正しく発音できるようになっても、単語になると以前の発音へ戻ることは珍しくありません。
単語では複数の音を連続して発音するため、一音よりも難しくなるからです。
そのため構音訓練では、まず言いやすい単語から始め、少しずつ単語の長さや音の位置、前後の音などの条件を変えていきます。
最初は言語聴覚士の見本を復唱し、慣れてきたら絵を見て自分から発音します。さらに、練習していない単語にも正しい発音が広がっているかを確認します。
大切なのは、一つの単語を完璧に覚えることではありません。
一音で身につけた正しい発音方法を、さまざまなことばの中でも使えるようにすることが、単音から単語へ進む大きな目的です。

