発音の検査で絵を見て名前を言う検査にはどんな意味がある?
子どもの発音の検査では、動物や食べ物、身近な物などの絵を見せて、
「これは何かな?」と名前を言ってもらうことがあります。
一見すると、物の名前を知っているか調べる「ことばの検査」のように見えるかもしれません。
しかし、構音検査で絵を見て名前を言ってもらう大きな目的は、大人の正しい発音を聞かせる前に、子どもがそのことばを普段どのように発音しているか確認することです。
例えば、普段「さかな」を「たかな」と発音している子どもでも、大人から「さかな」と聞いた直後なら正しくまねできることがあります。
そのため、最初から正しいことばを聞かせてしまうと、その子の普段の発音を十分に確認できない可能性があります。
この記事では、構音検査で絵を見て名前を言ってもらうことにはどのような意味があるのか、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
絵を見て名前を言うことを「自発呼称」という
絵や物を見て、その名前を自分から言うことを自発呼称といいます。
例えば魚の絵を見せて、「これは何?」と尋ね、子どもが、「さかな」と答えるような課題です。
構音検査では、目的となる音を含むさまざまな単語を使って自発呼称を行い、子どもの発音を確認します。
なぜ絵を使うの?
構音を調べるのであれば、「『さかな』って言って」「『らっぱ』って言って」と大人が単語を言い、それを繰り返してもらえば簡単そうに思えます。
しかし、それでは子どもが大人の正しい発音を聞いてから答えることになります。
正しい音を聞いた直後には、普段とは違う発音になる可能性があります。
そこで絵を使い、大人が目的となる単語を言わなくても、子ども自身から自然にそのことばを引き出します。
普段使っている発音を確認できる
自発呼称の大きなメリットは、子どもが普段使っている発音に近い状態を確認できることです。
例えば魚の絵を見せたとき、「たかな」と言ったとします。
大人が「さかな」という正しい音を聞かせていないため、その子が自分の中に持っている音を使って発音した可能性が高いと考えられます。
こうした発音を複数の単語で確認することで、誤りの特徴を調べていきます。
自発呼称と復唱は違う
構音検査では、自発呼称と復唱の違いが重要です。
自発呼称では、絵などを見て子ども自身がことばを思い出して発音します。
一方、復唱では、「さかなって言ってみて」と大人が言ったことばをまねしてもらいます。
どちらも「さかな」と言う課題ですが、発音するまでの過程が異なります。
自発呼称では間違えるのに復唱では言えることがある
例えば、
自発呼称
「たかな」
復唱
「さかな」
となる子どもがいます。
この場合、「さ」という音を全くつくれないわけではありません。
正しい音を聞けば、それを手掛かりに「さ」を発音できています。
しかし、自分からことばを言う場面では、まだ普段使っている「た」に置き換わってしまいます。
この違いは、構音の状態や訓練方法を考えるうえで重要な情報になります。
復唱しても同じように間違える場合もある
一方、
自発呼称
「たかな」
復唱
「たかな」
となる場合もあります。
正しい「さかな」を聞いても「たかな」と発音しています。
この場合には、「さ」という音そのものを正しくつくれるか、一音だけにして確認することがあります。
同じ「さかな→たかな」でも、自発呼称と復唱の結果によって次に確認する内容が変わります。
「さ」だけなら言えることもある
復唱でも「たかな」になる場合に、「さー」と一音だけ発音してもらうと、正しく言えることがあります。
すると、
「一音では言える」
↓
「単語になると難しい」
ということが分かります。
反対に、一音でも正しい「さ」をつくれない場合もあります。
構音検査では、このように条件を少しずつ変えながら、どこまで正しい発音が可能なのかを調べます。
絵の名前を知らなかったらどうする?
子どもが絵を見ても答えられないことがあります。
しかし、答えられない=発音できないではありません。
単純に絵の名前を知らない可能性があります。
また、知っていてもその場では思い出せないことがあります。
そのため、名前が出てこなかったという理由だけで構音の誤りとは判断しません。
絵そのものが分からない場合もある
大人には簡単に見える絵でも、子どもには何を描いているのか分かりにくいことがあります。
特に幼い子どもでは、写真なら分かってもイラストでは分かりにくいことがあります。
また、同じ物でも家庭で普段使っている呼び方と、検査で想定している名前が違うこともあります。
そのため、子どもの答え方を見ながら柔軟に判断します。
名前が出ないときにはヒントを使う
目的の単語が出てこない場合には、正解をすぐに言うのではなく、意味のヒントを出すことがあります。
例えば、目的となる物について、
「海にいるよ」
「泳いでいるよ」
などの情報を伝え、子ども自身から名前が出るか確認します。
こうすることで、目的となる単語そのものを先に聞かせず、自発的な発音を引き出せる場合があります。
それでも言えなければ復唱する
ヒントを出しても名前が出ない場合には、大人が単語を言い、復唱してもらうことがあります。
ここで大切なのは、「自発呼称できなかったから検査失敗」ではないということです。
自発呼称が難しくても、復唱で発音の状態を確認することはできます。
子どもの語彙や年齢に合わせて、得られる情報を集めていきます。
「名前を知っているか」と「発音できるか」は別
例えば子どもが魚の絵を見て名前を答えられなかったとしても、それだけでは「さ」が言えないかどうかは分かりません。
反対に、「たかな」と答えた場合には、「魚」という物を理解し、目的となることばも知っているものの、発音すると「さ」が「た」になっている可能性があります。
構音検査では、語彙の問題と発音の問題を区別することが大切です。
いろいろな音を含む絵を使う
構音検査では、適当に絵を選んでいるわけではありません。
さまざまな日本語音を確認できるように単語が選ばれています。
例えば、
- か行
- さ行
- た行
- な行
- は行
- ま行
- ら行
など、複数の音を含むことばを発音してもらいます。
これによって、「特定の音だけ難しいのか」「複数の音に誤りがあるのか」を確認できます。
同じ音でも複数の単語で確認する
一つの単語で発音を間違えただけでは、その音をいつも間違えるとは限りません。
例えば「さ」が含まれる単語でも、ある単語では正しく言えて、別の単語では間違えることがあります。
そのため、同じ音について複数の単語で確認します。
発音の傾向を調べるためには、一つのことばだけで判断しないことが重要です。
音が単語のどこにあるかも確認する
同じ音でも、単語の中の位置によって発音しやすさが異なることがあります。
単語の最初では言えても、途中に入ると難しくなることがあります。
また、前後にどのような音があるかによっても発音しやすさが変化します。
そのため、構音検査では目的となる音がさまざまな位置に含まれる単語を使って確認することがあります。
絵カードだけで構音障害を判断するわけではない
絵を見て名前を言う課題は構音評価の重要な方法ですが、それだけですべてを判断するわけではありません。
必要に応じて、
- 単音
- 復唱
- 文章
- 自然な会話
などでも発音を確認します。
さらに、舌や唇の動き、聞こえ、口腔内の状態などを確認することもあります。
絵カードでは言えるのに会話では間違えることもある
検査用の絵を見ながら一つずつゆっくり答える場合には、正しく発音できる子どももいます。
しかし、日常会話では発音を意識するだけでなく、「何を話すか」も同時に考えなければなりません。
そのため、正しい音が十分に定着していない段階では、会話になると以前の発音へ戻ることがあります。
絵カードでの発音と自然な会話の両方を確認することが大切です。
絵を使うと子どもが取り組みやすい
絵を使うことには、検査上の意味だけでなく、子どもが参加しやすいというメリットもあります。
特に幼児の場合、「今から『さ行』の発音を調べます」と言われても理解しにくく、緊張してしまうことがあります。
絵を見ながらクイズのように、「これなーんだ?」と尋ねることで、遊びに近い形で発音を確認できます。
正解を求めるテストではない
保護者から見ると、子どもが絵の名前を答えられないと、
「分からなかった」「検査ができなかった」と心配になるかもしれません。
しかし、構音検査の目的は絵の名前を何個正解できるか調べることではありません。
目的は、子どもが現在どのように音をつくり、どのような条件なら正しく発音できるのかを知ることです。
名前が分からなければ別の方法で発音を確認できます。
検査前に絵カードの練習をする必要はない
構音検査を受ける前に、家庭で特定の単語を何度も練習する必要はありません。
検査では普段の発音を確認したいからです。
直前に「さかな、さかな」と何度も練習すると、その単語だけ一時的に正しく言える可能性があります。
特別な練習をせず、普段どおりの状態で受ければ大丈夫です。
自発呼称から分かること
絵を見て名前を言う課題からは、さまざまな情報が得られます。
例えば、
- 普段どの音を使っているか
- どの音を間違えるか
- 何の音へ置き換えるか
- 音を省略していないか
- 発音に歪みがないか
- 同じ音をいつも間違えるか
などです。
さらに復唱や単音での発音と比較することで、正しい音をどの程度獲得しているのかを詳しく評価できます。
構音訓練にもつながる大切な情報
例えば「さかな」を自発呼称すると「たかな」になるものの、復唱なら「さかな」と言えるとします。
この場合、正しい「さ」をつくること自体はできています。
一方、一音の「さ」から正しくつくれない子どもでは、構音訓練の進め方が異なります。
このように、絵を見て自分から発音した結果と、ほかの条件での発音を比較することで、その子に合った練習の開始地点を考えることができます。
家庭で発音を見るときにも参考になる
家庭でも、発音を確認したいからといって、「『さかな』って言って」と先に正しいことばを聞かせると、普段とは違う発音になることがあります。
自然な会話の中で子どもが自分から言ったことばを聞く方が、普段の発音を把握しやすくなります。
ただし、家庭で構音検査をする必要はありません。
発音が気になる場合には、普段どのようなことばで間違えるのかを簡単に記録しておくと、相談時の参考になります。
まとめ
構音検査で絵を見て名前を言ってもらう大きな理由は、大人が正しい発音を聞かせる前に、子どもが普段どのような音を使っているのか確認するためです。
このように絵などを見て自分から名前を言うことを「自発呼称」といいます。
例えば、自発呼称では「さかな→たかな」になるものの、正しい「さかな」を聞いて復唱すると言える子どももいます。反対に、復唱しても「たかな」になる子どももいます。
さらに「さ」だけなら言えるのかを確認することで、正しい音をどの段階まで獲得しているのかを詳しく調べることができます。
また、絵の名前が分からないことと、発音できないことは別です。名前が出ない場合にはヒントを出したり、復唱へ切り替えたりしながら評価します。
絵を見て名前を言う課題は、物の名前を何個知っているか競うテストではありません。
子どもの自然な発音を引き出し、どの音をどのように使っているのかを知るための大切な方法です。復唱、単音、文章、自然な会話などの結果と組み合わせながら、その子の構音の特徴を総合的に評価していきます。

