発達障害と発音の問題には関係がある?

「発音が不明瞭なのですが、発達障害と関係があるのでしょうか?」

「自閉スペクトラム症の子どもは、構音障害になりやすいのでしょうか?」

子どもの発音が気になると、「発達障害があるのではないか」と心配する保護者の方もいます。

実際に、発達障害のある子どもの中には、発音が不明瞭だったり、ことばの音を身につけるまでに時間がかかったりする子どももいます。

しかし、発達障害があるから必ず構音障害になるわけではありません。また、構音障害があるから発達障害というわけでもありません。

発音の問題と発達障害は、それぞれ分けて考えることが大切です。

この記事では、発達障害と子どもの発音の問題にはどのような関係があるのか、言語聴覚士がわかりやすく解説します。


発達障害とは?

発達障害という言葉には、さまざまな状態が含まれます。

代表的なものには、

  • 自閉スペクトラム症(ASD)
  • 注意欠如・多動症(ADHD)
  • 限局性学習症(SLD)

などがあります。

それぞれ特徴は異なり、同じ診断名でも子どもによって得意なことや苦手なことは大きく異なります。


発達障害と構音障害は別のもの

まず理解しておきたいのは、発達障害と構音障害は同じものではないということです。

構音障害は、ことばの音を正しくつくることに関係する問題です。

一方、発達障害では、コミュニケーション、対人関係、注意、行動、学習など、さまざまな領域に特徴がみられます。

そのため、発音だけが不明瞭だからといって、発達障害を疑うことはできません。


発達障害の子どもに発音の問題がみられることはある

発達障害のある子どもの中にも、構音の問題を持つ子どもはいます。

例えば、

  • 特定の音を別の音へ置き換える
  • 一部の音を省略する
  • 発音が全体的に幼い
  • 会話になると不明瞭になる

などがみられる場合があります。

ただし、これは発達障害そのものの特徴とは限りません。

発音の発達がゆっくりであったり、別に構音障害が併存していたりする場合もあります。


ASDと発音の関係

自閉スペクトラム症(ASD)の子どもでは、ことばやコミュニケーションの発達にさまざまな特徴がみられます。

例えば、話し始める時期がゆっくりな子どももいれば、早くから多くの単語を話す子どももいます。

発音についても個人差が大きく、明瞭に話せる子どももいれば、構音が不明瞭な子どももいます。

ASDだから特定の発音間違いが起こる、という決まったパターンがあるわけではありません。


ASDでは話し方全体に特徴がみられることもある

ASDの子どもでは、発音そのものよりも、話し方の特徴が目立つ場合があります。

例えば、

  • 抑揚が独特
  • 声の大きさを調整しにくい
  • 話す速さが独特
  • 同じ言い方を繰り返す
  • 相手や場面に合わせて話し方を変えにくい

などです。

これらは「構音障害」とは別の問題として考える必要があります。

発音の正確さだけではなく、コミュニケーション全体を評価することが重要です。


ADHDと発音の関係

注意欠如・多動症(ADHD)そのものが、特定の構音障害を直接引き起こすわけではありません。

ただし、注意を持続することが難しかったり、衝動的に早く話したりする子どもでは、会話が聞き取りにくく感じられることがあります。

例えば、

  • 早口になる
  • 音がつながって聞こえる
  • 語尾が不明瞭になる
  • 話している途中で内容が変わる

などがみられる場合があります。

これは舌を正しく動かせない構音障害とは異なることがあります。


「早口で聞き取りにくい」と構音障害は同じ?

同じではありません。

子どもがゆっくり話したときには正しく発音できるものの、早く話すと音が崩れることがあります。

この場合、特定の音の構音方法そのものに問題があるのか、話す速さによって明瞭度が低下しているのかを区別する必要があります。

言語聴覚士は、単独の音、単語、文章、会話など条件を変えながら発音を確認します。


言葉の発達がゆっくりだと発音も幼くみえることがある

発達障害のある子どもの中には、言葉の発達がゆっくりな子どももいます。

ことばの獲得がゆっくりな場合、発音の発達も同じようにゆっくり進むことがあります。

例えば、幼い子どもにみられる音の置換が、同年代の子どもより長く残ることがあります。

この場合には、発音だけを見るのではなく、語彙や文、言葉の理解なども合わせて確認します。


「発音」と「ことば」は分けて考える

子どもの発音が不明瞭だと、「ことばが遅れている」と考えられることがあります。

しかし、ことばを知っていることそのことばを正しく発音できることは別の能力です。

例えば、「さかな」という物が何かを理解し、ことばとして「さかな」を知っていても、「たかな」と発音することがあります。

この場合、語彙ではなく構音の問題である可能性があります。


発音がきれいでもコミュニケーションに困ることはある

反対に、発音が非常に明瞭でも、発達障害によるコミュニケーションの難しさがみられることがあります。

例えば、

  • 会話の順番を取ることが難しい
  • 相手の表情や意図を読み取りにくい
  • 一方的に話し続ける
  • 場面に合ったことばを選びにくい

などです。

そのため、「発音がきれいだからコミュニケーションに問題はない」とも限りません。


音の聞き分けが苦手なこともある

子どもの中には、似たことばの音を聞き分けたり、ことばがどのような音からできているかを意識したりすることが苦手な場合があります。

こうした特徴が発音の習得に影響することがあります。

例えば、自分が発音した音と大人の正しい発音の違いに気付きにくい場合には、誤った発音が長く残ることがあります。

構音訓練では、発音するだけでなく音の聞き分けを練習することもあります。


感覚の特徴が関係することはある?

発達障害のある子どもの中には、触覚や音などへの感覚の感じ方に特徴がある場合があります。

口の中を触られることを強く嫌がったり、鏡を見ながら舌の位置を確認することが苦手だったりすることもあります。

このような場合には、一般的な構音訓練の方法をそのまま行うのではなく、子どもが取り組みやすい方法へ調整する必要があります。


模倣が難しい場合もある

発音を学ぶときには、大人の口の形や音をまねることがあります。

発達特性によって模倣課題に取り組みにくい場合には、「先生と同じようにやってみよう」という練習が難しいことがあります。

その場合は、

  • 視覚的な手掛かりを増やす
  • ゲームの中に練習を入れる
  • 短時間で終える
  • 子どもの好きな活動を利用する

など、練習方法を工夫します。


注意が続かなくても訓練できる?

構音訓練では、言語聴覚士の説明を聞いたり、同じ音を繰り返し練習したりすることがあります。

長時間集中することが難しい子どもの場合には、訓練時間や課題を調整します。

例えば、一つの課題を長く続けるのではなく、短い練習を複数組み合わせたり、遊びを取り入れたりします。

子どもの特性に合わせれば、発達障害があっても構音訓練を行うことはできます。


発音を直すことを優先しない場合もある

発達障害があり、構音の問題もある場合、必ず発音訓練を最優先するとは限りません。

例えば、

  • 自分の要求を伝えられない
  • 会話のやり取りが難しい
  • 使えることばが少ない
  • コミュニケーション手段が限られている

といった場合には、まず「伝える力」や「やり取りする力」を支援することがあります。

発音が多少不明瞭でも、本人が十分にコミュニケーションできているのであれば、訓練を急がないこともあります。


「きれいに話すこと」より「伝わること」

子どもの支援で重要なのは、発音だけを完璧にすることではありません。

子どもが、「これがほしい」「楽しかった」「嫌だった」など、自分の気持ちや考えを周囲へ伝えられることが大切です。

発音の練習が必要な場合でも、コミュニケーション全体の中で位置づけて考える必要があります。


発達障害だと思っていたら構音障害だけということもある

発音が不明瞭で周囲とのやり取りがうまくいかないと、「発達障害ではないか」と心配になることがあります。

しかし、発音が伝わりにくいために子どもが会話を避けていただけという場合もあります。

構音障害だけで発達障害と判断することはできません。

発達障害の評価では、発音以外にも対人関係、行動、遊び、学習などさまざまな側面を確認します。


構音障害と発達障害が併存することもある

一方で、発達障害と構音障害の両方がある子どももいます。

この場合には、

  • 発達特性への支援
  • 言葉・コミュニケーションへの支援
  • 構音への支援

を必要に応じて組み合わせます。

どれか一つの診断ですべての困りごとを説明しようとしないことが大切です。


家庭では発音を何度も注意しない

発達障害の有無にかかわらず、発音を何度も注意されることは子どもの負担になることがあります。

子どもが、「たかな!」と言ったときに、「違うでしょ。さかなって言って」と何度も言い直させるのではなく、

「そうだね、さかながいるね」と自然に正しい音を返す方法があります。

家庭ではまず、子どもが安心して話せることを大切にしましょう。


言語聴覚士は何を確認する?

言語聴覚士(ST)は、発音だけでなく、子どものコミュニケーション全体を確認します。

例えば、

  • どの音を間違えるか
  • 置換・省略・歪みのどれか
  • 発音の誤りに規則性があるか
  • 言葉の理解
  • 語彙や文の発達
  • 会話のやり取り
  • 模倣のしやすさ
  • 注意の持続
  • 聞こえ
  • 口腔運動

などを評価します。

そのうえで、発音訓練が必要なのか、言葉やコミュニケーションの支援を優先するのかを考えます。


どこに相談すればいい?

発音だけでなく発達全体について気になる場合には、

  • 小児科
  • 発達外来
  • 児童精神科
  • 言語聴覚士がいる医療機関
  • 児童発達支援施設
  • 自治体の発達相談

などへ相談できます。

発音だけが気になる場合には、言語聴覚士やことばの教室などへ相談する方法もあります。


こんな場合は発音以外も相談してみよう

発音の問題に加えて、

  • 言葉の理解がゆっくり
  • 会話のやり取りが難しい
  • 同年代の子どもとの関わりが難しい
  • 強いこだわりがある
  • 集団活動への参加が難しい
  • 注意が続きにくく生活に困っている

などがある場合には、発音だけでなく発達全体について相談することも検討しましょう。

ただし、一つの特徴だけで発達障害と判断することはできません。


まとめ

発達障害のある子どもの中には、発音が不明瞭だったり、発音の習得に時間がかかったりする子どももいます。

しかし、発達障害があるから必ず構音障害になるわけではなく、構音障害があるから発達障害というわけでもありません。

ASDでは話し方の抑揚やコミュニケーションに特徴がみられることがあり、ADHDでは早口などによって会話が聞き取りにくくなる場合がありますが、これらは構音障害とは区別して考える必要があります。

また、発達障害と構音障害が併存することもあります。

その場合には、発音だけに注目するのではなく、言葉の理解、会話、注意、本人の困りごとなどを含めて支援方法を考えます。

大切なのは、「きれいに発音できること」だけを目標にするのではなく、子どもが自分の気持ちや考えを相手へ伝えられることです。

発音だけでなく言葉やコミュニケーション全体に気になることがある場合には、言語聴覚士や発達を専門とする医療機関・相談機関へ相談してみましょう。

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