舌の動かしにくさと発音の関係
「子どもの発音が悪いのは、舌の動きが悪いからでしょうか?」
「舌をうまく動かせないと、どのような音が言いにくくなるのでしょうか?」
ことばを話すとき、舌は非常に重要な役割を果たしています。「た」「ら」「さ」「か」など、音によって舌を使う位置や動かし方は異なり、私たちは一瞬のうちに舌の形や位置を変えながら話しています。
そのため、舌を目的の位置へ動かしにくかったり、細かな動きを調整しにくかったりすると、発音に影響することがあります。
ただし、発音が不明瞭だからといって、必ず「舌の力が弱い」「舌の動きが悪い」というわけではありません。
この記事では、舌の動かしにくさと子どもの発音の関係について、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
発音するとき舌は何をしている?
発音するときには、舌をただ動かしているだけではありません。音に応じて舌の位置や形を細かく変えています。
例えば、
- 「た」では舌先付近を上の歯茎付近につける
- 「さ」では舌と歯茎付近の間に細い息の通り道をつくる
- 「か」では舌の奥を使う
- 「ら」では舌先付近を素早く使う
など、それぞれ異なる動きが必要です。
さらに、会話ではこれらの動きを短時間で次々に切り替えなければなりません。
舌を大きく動かせれば発音できるわけではない
「舌を出せる」「左右へ動かせる」など、大きな動きができることと、正しく発音できることは同じではありません。
発音では、舌を大きく動かす力よりも、必要な場所へ正確に動かし、細かな形をつくることが重要です。
例えば「さ」を発音するには、舌を大きく前へ出す必要はありません。舌を口の中の適切な位置に保ち、中央から細く息を流す必要があります。
そのため、舌を左右に動かす体操が上手でも、「さ」が正しく発音できないことはあります。
舌先を使う音への影響
舌先や舌の前方を細かく動かしにくい場合には、「た行」「だ行」「ら行」などの発音に影響することがあります。
特に「ら行」は、舌先付近を短時間で適切に動かす必要があるため、子どもにとって比較的難しい音の一つです。
ただし、幼児期に「ら行」がうまく言えないことは珍しくありません。舌の運動障害がなくても、発音の発達途中としてみられます。
「さ行」では舌の位置と息の流れが重要
「さ行」の発音では、舌を適切な場所へ置くだけでなく、舌と口蓋・歯茎付近の間に細い隙間をつくり、そこから息を流す必要があります。
舌の位置や形をうまく調整できないと、
- 別の音へ置き換わる
- 音が不明瞭になる
- 独特に歪んで聞こえる
ことがあります。
「さ行が言えない=舌が弱い」とは限らず、舌の位置や息の出し方をまだ十分に身につけていない場合もあります。
舌の奥を使う音もある
「か行」「が行」では、舌先ではなく舌の奥の部分を使います。
舌の奥を持ち上げて軟口蓋付近へ接触させ、息を一度止めてから開放することで音をつくります。
この動きが難しい場合には、「か」が「た」に近い音になるなど、本来とは異なる発音になることがあります。
子どもの発音発達でも「か行」を前方の音へ置き換えることがありますので、年齢や誤り方も合わせて考える必要があります。
舌の動きが遅いと会話が不明瞭になることもある
一つの音だけなら正しく発音できても、長い単語や文章になると不明瞭になることがあります。
会話では、舌を一つの位置から次の位置へ素早く移動させなければならないためです。
そのため、舌やその他の発話器官の運動調整に問題がある場合には、
- 短いことばでは比較的分かりやすい
- 長いことばになると崩れる
- 早く話すと不明瞭になる
といった特徴がみられることがあります。
「舌の筋力が弱い」ことが原因?
発音が悪いと、「舌の筋力が弱いのでは?」と考える方もいます。
しかし、機能性構音障害の子どもでは、舌の筋力そのものに明らかな問題がないことが多くあります。
正しい音をつくるためには、強い力を出すことよりも、舌を正しい位置へ正確に動かすことが重要です。
そのため、舌を強く押したり、筋力をつけることだけを目的とした運動を行ったりしても、発音が直接改善するとは限りません。
舌の体操をすれば発音はよくなる?
舌を出す、左右へ動かす、上へ持ち上げるなどの運動が使われることがあります。
口腔運動そのものを確認したり、特定の動きを身につけたりする目的では役立つことがあります。
しかし、発音の改善には実際の発音動作を練習することが重要です。
例えば、「さ」の発音を改善したい場合には、「さ」をつくるために必要な舌の位置や息の流れを練習する必要があります。
発音と直接関係しない舌運動を繰り返すだけで、構音障害が改善するとは限りません。
舌小帯が短いと舌を動かしにくい?
舌の裏側には「舌小帯」という組織があります。
舌小帯が短いと、舌先を前へ出したり、上へ持ち上げたりする動きが制限される場合があります。
そのため、発音への影響を心配する保護者も少なくありません。
ただし、舌小帯が短いからといって、必ず構音障害が起こるわけではありません。
舌小帯の見た目だけではなく、実際にどの程度舌を動かせるのか、発音にどのような影響があるのかを確認する必要があります。
脳や神経の問題で舌を動かしにくいこともある
舌の運動には、脳や神経、筋肉が関係しています。
脳性麻痺などによって発話に必要な運動をうまく調整できない場合には、舌だけでなく唇やあご、呼吸、発声などにも影響することがあります。
このような場合は、運動障害性構音障害として評価します。
特定の音だけではなく話し方全体が不明瞭な場合や、食べるときの舌・口の動きにも問題がある場合には、より広い視点から評価することが大切です。
機能性構音障害では舌の使い方が習慣化していることも
舌そのものを動かす能力に明らかな問題がなくても、本来とは異なる方法で舌を使って発音している子どももいます。
例えば、側音化構音では舌の形や息の流れが通常とは異なり、口蓋化構音では本来よりも舌の奥を使って発音します。
これは単純に「舌が動かない」という問題とは異なります。
子どもが身につけた発音方法そのものを、正しい構音方法へ切り替えていく必要があります。
発音だけで舌の動きを判断しない
「ら行が言えないから舌が動かない」とは限りません。
幼児期には、舌の運動機能に問題がなくても、発音の発達途中として特定の音が言えないことがあります。
反対に、舌を前へ出したり左右へ動かしたりできても、会話での細かな運動調整が難しいこともあります。
そのため、発音と舌の運動をそれぞれ確認したうえで、両者がどのように関係しているかを考えることが重要です。
食事の様子も参考になることがある
舌は、話すだけでなく食べるときにも使います。
舌の運動に明らかな問題がある場合には、
- 食べ物を口の中で動かしにくい
- 食べ物をまとめにくい
- 口からこぼれやすい
- かむことが難しい
など、食事場面にも特徴がみられることがあります。
ただし、発音が悪いからといって必ず食事にも問題があるわけではありません。
気になる場合は、相談時に食事の様子についても伝えるとよいでしょう。
家庭でできる舌のチェックは必要?
保護者が子どもに「舌を出して」「左右に動かして」と確認したくなることもあります。
しかし、家庭で舌の動きを確認するだけでは、発音に問題があるかどうかを正確に判断することは難しいでしょう。
また、何度も舌の動きや発音を指摘すると、子ども自身が話すことを気にするようになる場合があります。
普段の会話や食事の様子を見ながら、気になる点があれば専門家へ伝える程度で十分です。
構音訓練では舌の位置をどう教える?
構音訓練では、対象となる音に合わせて正しい舌の位置を身につけていきます。
例えば、
- 舌をどこにつけるか確認する
- 鏡で口の形を見る
- 正しい息の流れを確認する
- 一つの音を練習する
- 単語へ広げる
- 文や会話へ広げる
など、段階的に進めます。
舌をただたくさん動かすのではなく、目標とする音をつくるために必要な動きを練習することがポイントです。
家庭で自己流の舌トレーニングをしすぎない
インターネットでは、「発音をよくする舌体操」などが紹介されていることがあります。
しかし、発音の原因が異なれば必要な対応も異なります。
例えば、側音化構音と「ら行」の発達の遅れでは、練習方法は同じではありません。
また、口腔内の形態や運動機能に問題がある場合には、構音訓練以外の対応が必要になることもあります。
まずは原因を確認してから、その子に合った方法を選ぶことが大切です。
言語聴覚士は何を確認する?
言語聴覚士(ST)は、発音と舌の運動の両方を確認します。
例えば、
- 舌を前へ出せるか
- 舌を上へ動かせるか
- 左右へ動かせるか
- 舌の動きに左右差がないか
- 唇やあごの動き
- どの音を間違えているか
- どのような誤り方か
- 長いことばで不明瞭にならないか
などを評価します。
必要に応じて口腔内の形態や聞こえ、言葉の発達なども確認します。
こんな場合は相談してみよう
舌の動きや発音について、次のような特徴がある場合は一度相談してみるとよいでしょう。
- 舌をほとんど前へ出せない
- 舌を持ち上げることが難しい
- 特定の音が長く改善しない
- 発音全体が不明瞭
- 独特の歪んだ発音がある
- 食事にも口や舌の動かしにくさがある
- 本人が発音を気にしている
相談先には、言語聴覚士がいる医療機関、耳鼻咽喉科、歯科・口腔外科、児童発達支援施設などがあります。
まとめ
舌は、「た行」「さ行」「ら行」「か行」など多くの音をつくるために重要な役割を持っています。
そのため、舌を目的の位置へ動かしにくかったり、細かな運動を調整しにくかったりすると、発音に影響することがあります。
一方で、発音が不明瞭だからといって、必ず舌の筋力や運動に問題があるわけではありません。
発音の発達途中である場合や、舌の動きそのものではなく、正しい構音位置や息の出し方をまだ身につけていない場合もあります。
大切なのは、「舌を鍛えればよい」と考えるのではなく、どの音をどのように間違えているのか、舌の運動が実際に発音へ影響しているのかを確認することです。
気になる状態が続く場合には言語聴覚士などへ相談し、その子に必要な舌の使い方や構音方法を確認していきましょう。

