難聴・聞こえにくさと構音障害の関係
「子どもの発音が不明瞭なのですが、聞こえにくさが関係していることはありますか?」
「中耳炎を繰り返していると、発音にも影響するのでしょうか?」
子どもは、周囲の人が話すことばを聞き、それをまねしながら少しずつ発音を身につけていきます。
そのため、ことばの音を十分に聞き取れない状態が続くと、正しい発音を学びにくくなることがあります。
特に、特定の音の違いを聞き分けにくい場合には、その音を正しく発音することも難しくなることがあります。
ただし、発音が不明瞭だからといって必ず難聴があるわけではありません。 発音の発達、舌の使い方、口腔内の形態など、ほかの原因も考える必要があります。
この記事では、難聴・聞こえにくさと子どもの構音障害の関係について、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
発音は「聞くこと」から始まる
子どもが発音を覚えるときには、まず周囲の人が話していることばを聞きます。
例えば「さかな」ということばを何度も聞くことで、「さ・か・な」という音の並びを覚え、自分でも同じように言おうとします。
つまり、発音を身につけるためには、
正しく聞くこと
↓
音を聞き分けること
↓
まねして発音すること
という過程が重要になります。
聞こえにくいと音の違いが分かりにくくなる
難聴がある場合、単純にすべての音が小さく聞こえるとは限りません。
音の高さによって聞こえやすさが異なったり、特定の音を聞き分けにくかったりすることがあります。
例えば、ことばの中に含まれる細かな子音が十分に聞き取れなければ、子ども自身が「正しい音」を十分に学べないことがあります。
その結果、本来の音とは異なる発音を身につける可能性があります。
高い音が聞こえにくいと影響する音もある
日本語の中には、高い周波数成分を多く含む音があります。
例えば「さ行」などの摩擦音は、比較的高い周波数成分を含みます。
聞こえの状態によっては、このような音が聞き取りにくくなり、ほかの音との違いを認識しにくくなることがあります。
そのため、発音の誤り方をみるときには、「どの音が言えないか」だけでなく、「その音を十分に聞き取れているか」も確認することが大切です。
自分の声を聞くことも大切
発音をするときには、相手の声だけでなく、自分自身の声も聞いています。
子どもは自分が出した音を聞きながら、「今の音は合っているかな」と少しずつ調整していきます。
このような聞こえによる確認を「聴覚的フィードバック」と考えることができます。
聞こえにくさがある場合、この自分の発音を聞いて修正する過程にも影響することがあります。
難聴があるとどのような発音になる?
発音への影響は、難聴の程度や聞こえにくい音によって異なります。
例えば、
- 特定の子音が不明瞭
- 音を別の音へ置き換える
- 音を省略する
- 子音全体が弱く聞こえる
- 会話全体が聞き取りにくい
などがみられることがあります。
ただし、難聴のある子どもすべてに同じ発音の特徴が出るわけではありません。
軽度の難聴でも発音に影響する?
難聴というと、「ほとんど聞こえない状態」を想像するかもしれません。
しかし、軽度の難聴でも、ことばの細かな音が聞き取りにくくなる場合があります。
特に、周囲が騒がしい場所では聞き取りがさらに難しくなることがあります。
そのため、日常会話ではそれほど問題がないように見えても、一部の音の獲得に影響することがあります。
片耳だけの難聴でも影響する?
片耳の聞こえが良ければ、静かな場所で一対一の会話をする場合には大きな問題がないことがあります。
一方、保育園や幼稚園など周囲が騒がしい環境では、話している人の声を聞き取りにくくなることがあります。
また、音がどこから聞こえているのか判断しにくいこともあります。
片耳難聴だから必ず構音障害になるわけではありませんが、言葉や発音の発達と合わせて経過をみることが大切です。
中耳炎と発音の関係
子どもでは中耳炎がよくみられます。
特に滲出性中耳炎では、中耳に液体がたまり、痛みや発熱が目立たないまま聞こえにくくなることがあります。
この状態が長期間続いたり、何度も繰り返したりすると、ことばの音を十分に聞く機会が減る可能性があります。
そのため、発音や言葉の発達との関係を確認することがあります。
中耳炎なら必ず発音が悪くなる?
いいえ。
中耳炎になった子どもがすべて構音障害になるわけではありません。
一時的な軽い聞こえにくさであれば、発音への大きな影響がみられないこともあります。
ただし、
- 中耳炎を何度も繰り返している
- 長期間聞こえにくい状態がある
- 言葉の発達もゆっくり
- 発音がかなり不明瞭
といった場合には、聞こえも含めて評価することが大切です。
「聞こえているように見える」こともある
軽度の難聴や片耳難聴などでは、日常生活である程度会話が成立するため、周囲が聞こえにくさに気付かないことがあります。
例えば、子どもが周囲の状況や表情を手掛かりにして会話を理解していることもあります。
そのため、「呼べば振り向くから大丈夫」だけでは、すべてのことばの音が十分に聞こえているとは判断できません。
こんな様子があれば聞こえも確認しよう
発音の問題とともに、次のような様子がある場合には、聞こえについて確認してみるとよいでしょう。
- 呼びかけへの反応が安定しない
- テレビの音量を大きくしたがる
- 聞き返しが多い
- 話している人の口元をよく見る
- 遠くからの呼びかけに気付きにくい
- 中耳炎を繰り返している
- 言葉の発達もゆっくり
ただし、これらがあれば必ず難聴というわけではありません。
新生児聴覚スクリーニングが正常でも大丈夫?
新生児聴覚スクリーニングで問題がなかった場合でも、その後に聞こえの問題が生じることがあります。
中耳炎による一時的な難聴や、後から現れるタイプの難聴もあります。
そのため、「赤ちゃんのときに検査を通ったから、聞こえには絶対問題がない」とは限りません。
発音や言葉の発達とともに聞こえが気になる場合には、改めて確認することが大切です。
難聴と機能性構音障害は違う
機能性構音障害は、発音に関係する器官や聞こえなどに発音の問題を説明できる明らかな原因がないにもかかわらず、特定の音を正しくつくれない状態です。
一方、聞こえにくさが原因となって発音へ影響している場合には、まず聴覚面への対応が重要になります。
同じ「さ行が言えない」という症状でも、原因によって対応方法が変わります。
聞こえに問題があるのに発音だけ練習してもいい?
発音の問題の背景に聞こえにくさがある場合には、発音だけを練習するのでは十分でないことがあります。
まず、
- 聴力の状態
- 中耳の状態
- 補聴器などが必要か
を確認し、子どもがことばの音を十分に聞ける環境を整えることが重要です。
そのうえで必要に応じて、構音訓練を行います。
補聴器を使えば発音も自然に治る?
補聴器によってことばの音を聞き取りやすくなると、発音を学びやすい環境になります。
しかし、すでに誤った発音方法が習慣として定着している場合には、補聴器を使い始めただけで自動的に発音が改善するとは限りません。
この場合には、正しい音を聞き分ける練習や構音訓練を組み合わせることがあります。
聴覚活用と構音訓練を組み合わせる
聞こえにくさのある子どもの構音支援では、「正しく口を動かすこと」だけではなく、「正しい音を聞くこと」も大切です。
例えば、
- 正しい音を十分に聞く
- 似た音を聞き分ける
- 自分の発音と正しい音を比べる
- 舌や唇の位置を確認する
- 正しい音を発音する
などを組み合わせながら進めます。
人工内耳の場合はどう?
高度・重度の難聴があり、人工内耳を使用している子どもでは、人工内耳を通して音やことばを聞き取りながら、少しずつ聴覚や発話を発達させていきます。
人工内耳を装用すればすぐにすべての音を正確に聞き取れるわけではありません。
聞こえ方や言葉の発達を確認しながら、必要に応じて聞き取りや発音の支援を行います。
聞こえ以外のコミュニケーションも大切
難聴がある子どもの支援では、発音をきれいにすることだけが目標ではありません。
子どもの聞こえ方や発達、家庭の考え方などに応じて、
- 音声
- 手話
- 指文字
- 文字
- ジェスチャー
などを活用することもあります。
大切なのは、子どもが自分の気持ちや考えを相手に伝えられることです。
家庭で何度も発音を直さない
聞こえにくさのある子どもが発音を間違えると、「よく聞いて」「違うよ」と何度も言い直させたくなることがあります。
しかし、本人には音の違いそのものが十分に聞き取れていない可能性があります。
その状態で繰り返し言わせても、正しい発音につながらないことがあります。
まず聞こえの状態を確認し、専門家の助言を受けながら進めることが大切です。
耳鼻咽喉科では何を調べる?
聞こえが気になる場合には、耳鼻咽喉科などで聴力を確認します。
年齢に応じて、
- 鼓膜や中耳の状態
- 聴力
- 音への反応
などを調べます。
小さな子どもでは、大人と同じ検査が難しいため、遊びを取り入れた方法など年齢に合わせた聴力検査を行うことがあります。
言語聴覚士は何を確認する?
言語聴覚士(ST)は、発音だけでなく聞こえと言葉の発達も合わせて確認します。
例えば、
- どの音を間違えているか
- どのような誤り方か
- 音の聞き分けができるか
- 自分の発音の違いに気付けるか
- 会話がどの程度聞き取れているか
- 語彙や文の発達
- 補聴器・人工内耳の使用状況
などを評価します。
必要に応じて耳鼻咽喉科医や補聴器・人工内耳に関わる専門職と連携します。
どこに相談すればいい?
発音と聞こえの両方が気になる場合には、
- 耳鼻咽喉科
- 小児難聴を診療している医療機関
- 言語聴覚士がいる医療機関
- 自治体の発達相談
などへ相談できます。
特に中耳炎を繰り返している場合や、呼びかけへの反応にも気になる点がある場合には、耳鼻咽喉科で聞こえを確認してみましょう。
こんな場合は相談してみよう
次のような場合には、発音だけでなく聞こえについても一度確認してみるとよいでしょう。
- 発音がかなり不明瞭
- 多くの音を間違えている
- ことばの発達もゆっくり
- 聞き返しが多い
- 呼びかけへの反応が安定しない
- 中耳炎を繰り返している
- 家族以外には話が伝わりにくい
早く相談したからといって、必ず何らかの治療や訓練が必要になるわけではありません。
現在の聞こえを確認しておくだけでも、今後の発音や言葉の発達を考えるうえで役立ちます。
まとめ
子どもは周囲のことばを聞き、それをまねしながら発音を身につけます。
そのため、難聴や中耳炎などによってことばの音を十分に聞けない状態が続くと、発音の発達に影響することがあります。
聞こえにくさがある場合には、特定の音を聞き分けにくくなり、置換や省略などの発音の誤りにつながることがあります。
また、自分自身の発音を聞いて修正することも難しくなる可能性があります。
一方で、発音が悪い子どもすべてに難聴があるわけではありません。
発音の発達、舌の使い方、口腔内の形態など、さまざまな原因があります。
大切なのは、発音だけを見て判断せず、必要に応じて聞こえも確認することです。
難聴がある場合には、まず聞こえを支える環境を整え、そのうえで必要に応じて言語聴覚士による聞き取りや構音の支援を行っていきます。

