歯並び・かみ合わせと発音の関係
「前歯のすき間があると、発音が悪くなるのでしょうか?」
「かみ合わせを治せば、『さ行』もきれいに言えるようになりますか?」
ことばを発音するときには、舌や唇だけでなく、歯やあごも重要な役割を持っています。特に「さ行」などでは、舌と前歯の位置関係や、息を通すための狭いすき間をつくることが必要です。
そのため、歯並びやかみ合わせの状態によっては、特定の音が発音しにくくなることがあります。
ただし、歯並びが悪いからといって、必ず構音障害になるわけではありません。 また、歯列矯正をすれば発音が自動的に改善するとも限りません。
この記事では、歯並び・かみ合わせと子どもの発音の関係について、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
発音に歯はどのように関係する?
発音するときには、舌や唇を歯や歯茎の近くへ動かし、息の流れを細かく調整しています。
例えば「さ」を発音するときには、舌と上の前歯・歯茎付近との位置関係を調整し、中央に細い息の通り道をつくります。
歯の位置が大きく変わっていたり、前歯の間にすき間があったりすると、息の流れが変化して音が不明瞭になることがあります。
どの音が影響を受けやすい?
歯並びやかみ合わせの影響を受けやすい代表的な音が「さ行」です。
例えば、
- さ
- し
- す
- せ
- そ
- ざ行
などは、舌と歯・歯茎付近の位置関係や息の流れが重要になります。
また、口唇や前歯の状態によっては、その他の音にも影響する場合があります。
ただし、同じ歯並びでも発音への影響には個人差があります。
「さ行」はなぜ歯並びの影響を受けやすい?
「さ行」は摩擦音と呼ばれる音を含みます。
発音するときには、舌と口の中に狭い通り道をつくり、そこへ息を流すことで摩擦を起こします。
この息の流れが重要です。
前歯の位置や舌の位置が本来と大きく異なると、息が広がったり横へ漏れたりして、正しい摩擦音をつくりにくくなることがあります。
前歯のすき間があると発音に影響する?
前歯の間に大きなすき間がある場合、息がそこから漏れてしまい、一部の音が不明瞭になることがあります。
特に「さ行」では、息を細く前方へ出す必要があるため、歯のすき間によって音の聞こえ方が変わることがあります。
ただし、前歯にすき間があれば必ず発音に問題が起こるわけではありません。
舌の位置や息の調整によって、問題なく発音できる子どももいます。
前歯がかみ合わない「開咬」と発音
奥歯をかみ合わせても上下の前歯の間にすき間が残る状態を開咬(かいこう)といいます。
開咬があると、舌が前方へ出やすくなり、舌と前歯の位置関係が変化することがあります。
その結果、「さ行」などの発音に影響する場合があります。
舌を上下の前歯の間へ出して音をつくるような構音がみられることもあります。
受け口と発音の関係
下の前歯や下あごが上の前歯より前に出るようなかみ合わせは、一般に「受け口」と呼ばれます。
専門的には反対咬合などと呼ばれる状態があります。
上下の歯やあごの位置関係が通常と異なることで、舌を使う空間や息の流れが変化し、発音に影響する場合があります。
ただし、受け口があっても発音に大きな問題がない子どももいます。
出っ歯と発音の関係
上の前歯が前方へ大きく出ている場合にも、唇の閉じ方や舌との位置関係が変わることがあります。
程度によっては、唇を閉じてつくる音や舌と前歯周辺を使う音に影響する可能性があります。
しかし、歯の見た目だけで構音障害があるかどうかを判断することはできません。
実際の発音を確認する必要があります。
歯が抜けている時期はどうなる?
子どもは乳歯から永久歯へ生え変わる時期に、前歯が一時的に抜けることがあります。
前歯がない間は息の流れや舌の位置が変化するため、「さ行」などが一時的に言いにくくなることがあります。
永久歯が生えてくると自然に発音が変化することもあるため、生え変わりの時期では歯の状態も考慮して評価します。
歯の生え変わり中に構音訓練してもいい?
発音訓練を行えるかどうかは、対象となる音や歯の状態によって異なります。
前歯が抜けていて、対象となる音をつくるための条件が大きく変化している場合には、歯が生えるまで本格的な訓練を待つことがあります。
一方、歯の状態に影響されにくい音の練習を進められることもあります。
訓練の時期は、言語聴覚士や歯科医師などと相談して決めるとよいでしょう。
指しゃぶりとかみ合わせ
長期間の指しゃぶりなどが、歯列やかみ合わせに影響することがあります。
例えば、前歯がかみ合いにくくなったり、歯列の形に変化が生じたりする場合があります。
その結果として舌の位置にも影響し、発音に関係する可能性があります。
ただし、「指しゃぶりをしたから構音障害になった」と単純に考えることはできません。
発音、歯列、舌の使い方を合わせて確認する必要があります。
舌を前へ出す癖と歯並び
安静時や飲み込むときに舌が前方へ出る状態が続くと、歯並びやかみ合わせと関連する場合があります。
また、発音するときにも舌が前歯の間へ出ると、「さ行」などが不明瞭になることがあります。
この場合、歯並びだけではなく、普段の舌の位置や発音時の舌の使い方も確認することが重要です。
歯並びが悪いと必ず構音障害になる?
いいえ。
歯並びやかみ合わせに特徴があっても、問題なく発音できる子どもはたくさんいます。
舌は非常に柔軟な器官であり、口の中の状態に合わせて位置や動きを調整することができます。
そのため、歯並びの見た目だけから「この子は構音障害になる」と判断することはできません。
発音が悪い原因が歯並びとは限らない
「さ行が言えないから歯並びのせいだ」と考えるのも注意が必要です。
子どもの発音が不明瞭になる原因には、
- 発音の発達途中
- 機能性構音障害
- 舌の使い方
- 聞こえ
- 口腔内の形態
- 運動機能
など、さまざまなものがあります。
歯並びは、その中の一つの要因として考えます。
歯列矯正をすれば発音も治る?
歯列矯正によって歯やあごの位置関係が改善すると、正しい発音をつくりやすい環境になる場合があります。
しかし、歯並びが改善しただけで発音も自動的に改善するとは限りません。
子どもが長い間、歯並びに合わせた独特の舌の使い方で発音していた場合、その方法が習慣として残ることがあります。
その場合には、歯列が整った後に構音訓練が必要になることがあります。
発音の癖が残ることがある
例えば、開咬があるため舌を前へ出して「さ行」を発音する方法を長く使っていたとします。
その後、歯科矯正などによってかみ合わせが改善しても、子ども自身はこれまでの発音方法を使い続けることがあります。
正しい発音ができる形になったことと、正しい構音方法を身につけることは別です。
このような場合には、舌の位置や息の出し方を新しく学び直す必要があります。
構音訓練と矯正治療はどちらが先?
これは子どもの状態によって異なります。
歯やあごの状態によって正しい音をつくることが非常に難しい場合には、歯科的な治療を先に検討することがあります。
一方、現在の口腔内の状態でも正しい構音が可能と判断されれば、構音訓練を進める場合があります。
そのため、言語聴覚士と歯科医師・歯科矯正医などが連携して考えることが大切です。
矯正装置をつけると一時的に話しにくくなることもある
歯科矯正では、口の中にさまざまな装置を装着することがあります。
装置によって舌を動かせる空間が変わるため、装着直後には一時的に発音しにくくなることがあります。
多くの場合は少しずつ慣れていきますが、発音への影響が強い場合には歯科医師へ相談しましょう。
もともと構音訓練を受けている場合には、言語聴覚士にも装置を装着したことを伝えるとよいでしょう。
家庭で歯並びだけを見て判断しない
保護者が子どもの口の中を見て、「前歯にすき間があるから発音が悪いのだろう」と感じることがあります。
しかし、外から見える歯並びだけでは、実際の構音への影響は分かりません。
重要なのは、
- どの音を間違えているか
- 舌をどの位置で使っているか
- 息がどこから流れているか
- 歯並びとの関連があるか
を総合的に確認することです。
何度も言い直させる必要はない
歯並びが関係している可能性がある発音でも、家庭で何度も言い直させる必要はありません。
正しい音をつくるための口腔内の条件が整っていなかったり、正しい舌の位置が分かっていなかったりする場合には、繰り返すだけでは改善しないことがあります。
むしろ誤った発音を何度も反復する可能性があります。
発音の練習が必要な場合には、専門家から具体的な方法を教えてもらいましょう。
言語聴覚士は何を確認する?
言語聴覚士(ST)は、歯並びだけでなく、実際の発音や舌の使い方を確認します。
例えば、
- どの音を間違えているか
- 置換・省略・歪みのどれか
- 舌が前歯の間に出ていないか
- 息が正しい方向へ流れているか
- 単独では正しく発音できるか
- 会話でも同じ誤りがみられるか
- 歯並びやかみ合わせとの関連
などを評価します。
必要に応じて歯科医師や歯科矯正医などと連携します。
どこに相談すればいい?
歯並びとかみ合わせ、発音の両方が気になる場合には、
- 言語聴覚士がいる医療機関
- 小児歯科
- 歯科矯正
- 歯科口腔外科
- 耳鼻咽喉科
などが相談先になります。
歯並びだけでなく発音そのものも気になることを伝えると、必要な専門職につながりやすくなります。
こんな場合は相談してみよう
次のような場合には、一度専門家へ相談してみるとよいでしょう。
- さ行などの発音が長く不明瞭
- 舌が前歯の間へ出る
- 独特の歪んだ発音がある
- 開咬などかみ合わせの問題がある
- 歯科矯正を予定している
- 矯正後も発音が改善しない
- 本人が発音を気にしている
歯科と構音の両方の視点から確認することが大切です。
まとめ
歯並びやかみ合わせは、子どもの発音に影響することがあります。特に「さ行」などでは、舌と前歯・歯茎付近の位置関係や息の流れが重要なため、前歯のすき間や開咬などによって音が不明瞭になる場合があります。
一方で、歯並びに特徴があっても問題なく発音できる子どもも多く、歯並びが悪いから必ず構音障害になるわけではありません。
また、歯列矯正によって口腔内の環境が整っても、それまでに身についた舌の使い方が残り、発音が自動的には改善しないことがあります。その場合には構音訓練が必要になることがあります。
大切なのは、歯並びの見た目だけで原因を決めるのではなく、実際の発音、舌の使い方、かみ合わせを総合的に確認することです。気になる場合には、言語聴覚士や歯科医師・歯科矯正医などへ相談してみましょう。

