運動障害性構音障害とは?子どもにもみられる?
「子どもの発音が全体的にはっきりしません。」
「脳性麻痺があると、発音にも影響するのでしょうか?」
子どもの発音が不明瞭になる原因は一つではありません。
特定の音だけをうまく発音できない場合もあれば、話すために必要な舌や唇などを動かしにくいため、ことば全体が聞き取りにくくなる場合もあります。
脳や神経、筋肉などの問題によって、話すために必要な運動を適切に行うことが難しくなった状態を「運動障害性構音障害」といいます。
英語では「dysarthria(ディサースリア)」と呼ばれます。
成人の脳卒中やパーキンソン病などで知られていますが、子どもにもみられることがあります。
この記事では、子どもの運動障害性構音障害について、原因や特徴、評価、支援方法などを言語聴覚士がわかりやすく解説します。
運動障害性構音障害とは?
私たちがことばを話すためには、脳からの指令によって、呼吸や発声、舌、唇、あごなどを細かく動かす必要があります。
例えば「た」と発音するときには、舌を適切な場所へ動かし、息や声を出すタイミングを調整します。
運動障害性構音障害では、脳や神経、筋肉などの問題によって、こうした話すための運動がうまく行えなくなります。
その結果、発音だけでなく、声や話す速さ、抑揚などにも影響することがあります。
子どもにも運動障害性構音障害はみられる?
運動障害性構音障害というと、脳卒中後の成人を思い浮かべる方もいるかもしれません。
しかし、子どもにもみられることがあります。
代表的なものとして、脳性麻痺など、発話に必要な運動機能へ影響する状態に伴って生じる場合があります。
子どもの場合は、発音をすでに獲得した後に障害される成人とは異なり、運動機能の問題がある中で発音や話しことばを発達させていくことがあります。
そのため、子どもの発達全体を考えながら評価・支援することが重要です。
発音だけの問題ではない
運動障害性構音障害の大きな特徴は、問題が「特定の音の発音」だけに限られないことです。
話すためには、大きく分けると、
- 呼吸
- 発声
- 共鳴
- 構音
- プロソディ
などの機能が関係しています。
運動障害性構音障害では、これらの一部または複数に問題がみられることがあります。
① 呼吸への影響
話すためには、肺から送り出される息を利用します。
呼吸を適切にコントロールできないと、
- 一息で話せることばが短い
- 文の途中で息が切れる
- 声が小さくなる
- 話している途中で声が弱くなる
などの特徴がみられることがあります。
姿勢や身体の運動状態が呼吸に影響している場合もあります。
② 発声への影響
肺から出た息によって声帯を振動させ、声をつくります。
発声に関係する運動がうまく調整できない場合には、
- 声が小さい
- かすれた声になる
- 力の入った声になる
- 声の高さを調整しにくい
- 声量が安定しない
などがみられることがあります。
③ 共鳴への影響
声は、口や鼻などの空間で響くことで、その人らしい音になります。
軟口蓋などの運動に問題があると、鼻と口への音の響きを適切に調整できなくなることがあります。
その結果、鼻にかかったような声になるなど、共鳴に変化がみられる場合があります。
④ 構音への影響
舌、唇、あごなどを素早く正確に動かすことが難しいと、ことばの音が不明瞭になります。
例えば、
- 舌を目的の位置へ動かしにくい
- 唇をしっかり閉じにくい
- あごの動きが安定しない
- 素早く音を切り替えにくい
などがみられることがあります。
特定の音だけではなく、複数の音が不明瞭になることもあります。
⑤ プロソディへの影響
プロソディとは、話す速さ、リズム、アクセント、抑揚など、ことばの音の流れに関係する要素です。
運動障害性構音障害では、
- 話す速さが遅い
- 速さを調整しにくい
- 一音ずつ区切ったようになる
- 抑揚が乏しい
- リズムが不自然になる
などがみられる場合があります。
そのため、一つひとつの音だけでなく、「話し方全体」を評価する必要があります。
機能性構音障害との違いは?
機能性構音障害では、舌や唇などに明らかな形態的・運動的問題がないにもかかわらず、特定の音を正しく発音できないことが中心です。
例えば、「さ行がた行になる」など、特定の音に規則的な誤りがみられることがあります。
一方、運動障害性構音障害では、話すための運動そのものに問題があります。
そのため、
機能性構音障害:特定の音のつくり方がうまく身についていない
運動障害性構音障害:話すために必要な運動を適切に行うことが難しい
という違いがあります。
実際には子どもの状態を詳しく評価して判断します。
器質性構音障害との違いは?
器質性構音障害では、口蓋裂など、発音に関係する器官の形態や構造上の問題が発音に影響します。
一方、運動障害性構音障害では、脳・神経・筋肉などに関係する運動機能の問題が中心となります。
つまり、
- 機能性構音障害:明らかな形態・運動の問題がない
- 器質性構音障害:発音器官の形態・構造に問題がある
- 運動障害性構音障害:発話に必要な運動機能に問題がある
と整理すると理解しやすいでしょう。
脳性麻痺と運動障害性構音障害
子どもの運動障害性構音障害を考えるうえで、代表的な背景の一つが脳性麻痺です。
脳性麻痺では、身体の運動だけでなく、話すために必要な筋肉の動きにも影響がみられることがあります。
例えば、舌や唇、あごなどの動きを細かく調整することが難しかったり、姿勢や呼吸が安定しにくかったりすることがあります。
そのため、発音だけを練習するのではなく、姿勢、呼吸、発声なども含めて考える必要があります。
食べる機能にも問題がみられることがある
舌や唇、あごなどは、話すときだけに使うものではありません。
食べたり飲み込んだりするときにも使用します。
そのため、原因となる運動障害によっては、
- 食べ物を口からこぼしやすい
- かむことが難しい
- 舌を動かしにくい
- 飲み込みに問題がある
など、摂食嚥下機能にも問題がみられる場合があります。
ただし、運動障害性構音障害がある子どもすべてに摂食嚥下障害があるわけではありません。
発音が不明瞭でも理解力に問題があるとは限らない
話していることが聞き取りにくいと、「ことばを理解していないのではないか」と思われてしまうことがあります。
しかし、運動障害性構音障害は、基本的には「話すための運動」に関係する問題です。
そのため、発音が非常に不明瞭であっても、ことばを理解する力や伝えたい内容が十分にある子どももいます。
「うまく話せないこと」と「考えていることがないこと」は同じではありません。
周囲がこの点を理解することは非常に重要です。
「もっとゆっくり話して」だけでは難しいこともある
発音が不明瞭な子どもに対して、「ゆっくり話して」「はっきり言って」と声をかけることがあります。
しかし、発話運動そのものに問題がある場合、本人が意識するだけでは改善できないことがあります。
何度も言い直しを求めることで、話すこと自体が負担になる可能性もあります。
伝わりにくい場合には、話し方を工夫するだけでなく、文字や絵、ジェスチャーなど別の方法を利用することも大切です。
言語聴覚士は何を評価する?
言語聴覚士(ST)は、発音だけではなく、話すために必要な機能を総合的に評価します。
例えば、
- 姿勢
- 呼吸
- 声の大きさや質
- 鼻への響き
- 舌・唇・あごの動き
- 発音
- 話す速さ
- リズムや抑揚
- 会話全体の聞き取りやすさ
などを確認します。
子どもの場合には、年齢や発達段階、コミュニケーション能力なども合わせて評価することが重要です。
リハビリテーションでは何をする?
リハビリテーションの内容は、子どもの状態によって大きく異なります。
例えば、
- 話しやすい姿勢を整える
- 呼吸と発声を調整する
- 声の出し方を練習する
- 舌や唇を使った構音を練習する
- 話す速さを調整する
- 相手に伝わりやすい話し方を練習する
などを行う場合があります。
大切なのは、単に舌や唇をたくさん動かすことではなく、実際の発話やコミュニケーションにつながる練習を考えることです。
「正しく発音すること」だけが目標ではない
運動機能の状態によっては、すべての音を完全に明瞭に発音することが難しい場合もあります。
そのような場合に、「正しく話すこと」だけを目標にすると、子どものコミュニケーションがかえって制限されることがあります。
重要なのは、子どもが自分の気持ちや考えを周囲へ伝えられることです。
そのため、発話の練習とともに、別のコミュニケーション方法を取り入れることがあります。
AACを活用することもある
発話だけでは十分に伝えることが難しい場合には、AAC(拡大・代替コミュニケーション)を活用することがあります。
例えば、
- ジェスチャー
- 絵カード
- 文字
- コミュニケーションボード
- タブレット
- 音声出力装置
などがあります。
AACを使用することは、「話すことを諦める」という意味ではありません。
発話とAACを併用しながら、そのとき最も伝わりやすい方法を使うことができます。
家庭で大切にしたいこと
家庭では、正しい発音を何度も求めることよりも、子どもが安心して伝えられる環境をつくることが大切です。
うまく聞き取れなかった場合には、「もう一回ちゃんと言って」と繰り返すだけではなく、指差しやジェスチャーなども使いながら内容を確認しましょう。
子どもが伝えようとしていることを受け止め、「伝わった」という経験を増やしていくことが重要です。
周囲にも特徴を伝えておく
保育園、幼稚園、学校などでは、家族よりも子どもの発話を聞き慣れていない人とコミュニケーションを取る機会が増えます。
必要に応じて、
- 発音が不明瞭になることがある
- 急かすとさらに話しにくくなる
- 十分に話す時間を取る
- 分からない場合は選択肢を示す
- 文字や絵なども利用する
といった対応を共有しておくとよいでしょう。
どこに相談すればいい?
子どもの発音が全体的に不明瞭で、運動面の問題もみられる場合には、医療機関などで相談することができます。
地域や子どもの状態によって異なりますが、
- 小児科
- 小児神経科
- リハビリテーション科
- 言語聴覚士がいる医療機関
- 児童発達支援施設
などが相談先になることがあります。
発音だけでなく、身体の運動や食事などにも気になる点がある場合には、そのことも合わせて伝えましょう。
まとめ
運動障害性構音障害とは、脳や神経、筋肉などの問題によって、話すために必要な運動を適切に行うことが難しくなる状態です。
英語ではdysarthria(ディサースリア)と呼ばれ、成人だけでなく子どもにもみられます。
子どもでは脳性麻痺などに伴ってみられることがあり、舌や唇の動きだけでなく、呼吸、発声、共鳴、話す速さや抑揚など、話し方全体に影響する場合があります。
そのため、支援では特定の音を正しく言う練習だけでなく、子どもがどのようにすれば相手へ伝えやすくなるのかを考えることが重要です。
必要に応じて文字や絵、ジェスチャー、AACなども活用しながら、「きれいに話すこと」だけではなく「自分の気持ちや考えを伝えられること」を大切に支援していきます。

