器質性構音障害とは?
「口や舌の形によって発音が悪くなることはありますか?」
「口蓋裂があると、どのような発音になりやすいのでしょうか?」
発音するときには、舌や唇を動かすだけでなく、歯やあご、口蓋など、口の中のさまざまな部分を使って音をつくっています。
そのため、これらの形や構造に問題があると、正しい発音が難しくなることがあります。
このように、発音に関係する器官の形態や構造の問題によって生じる構音障害を「器質性構音障害」といいます。
子どもでは口唇裂・口蓋裂などに伴ってみられることがありますが、原因や発音への影響は一人ひとり異なります。
この記事では、器質性構音障害とはどのようなものなのか、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
器質性構音障害とは?
器質性構音障害とは、発音に関係する器官の形態や構造上の問題によって、ことばの音を正しくつくることが難しくなる状態です。
私たちが話すときには、
- 舌
- 唇
- 歯
- あご
- 硬口蓋
- 軟口蓋
などを使っています。
これらの形や構造に問題があると、舌を適切な場所につけにくかったり、口の中に必要な圧力をつくりにくかったりして、発音に影響することがあります。
機能性構音障害との違い
子どもの構音障害には「機能性構音障害」もあります。
機能性構音障害は、発音に関係する器官に発音の問題を説明できるような明らかな形態的・運動的問題がないにもかかわらず、特定の音を正しく発音できない状態です。
一方、器質性構音障害では、口蓋裂など、発音に関係する器官の形態や構造上の問題が背景にあります。
ただし、形態的な問題があるからといって、発音の誤りがすべて直接その形態だけで決まるわけではありません。長期間続いた発音方法が習慣化していることもあるため、実際の構音を詳しく評価する必要があります。
器質性構音障害の代表的な原因
器質性構音障害につながる原因として代表的なのが、口唇裂・口蓋裂です。
そのほかにも、舌やあご、歯などの形態的な問題が発音に影響する場合があります。
原因によって発音への影響は異なるため、「器質性構音障害だからこの音を間違える」と一つのパターンで考えることはできません。
口蓋裂とは?
口蓋とは、口の中の天井にあたる部分です。
口蓋裂では、この部分が生まれつき完全にはつながっていない状態があります。口唇裂を伴う場合もあります。
口蓋は食べることだけでなく、発音にも重要な役割を持っています。
特に、口と鼻の間を適切に閉じ、息を口の中にためて音をつくるためには、軟口蓋などが適切に働く必要があります。
鼻咽腔閉鎖機能とは?
発音するとき、すべての音で鼻へ息を流しているわけではありません。
「ま」「な」などの鼻音では鼻へ息を流しますが、「ぱ」「た」「か」「さ」など多くの音では、軟口蓋などを使って鼻への通り道を閉じ、口から息を出します。
このように、発音するときに口と鼻の通り道を調整する働きを鼻咽腔閉鎖機能といいます。
鼻咽腔閉鎖機能が不十分だとどうなる?
鼻咽腔閉鎖機能が十分でない状態を、鼻咽腔閉鎖機能不全といいます。
本来、口から出るはずの息が鼻へ漏れてしまうため、発音に影響することがあります。
例えば、鼻にかかったような声に聞こえる「開鼻声」がみられたり、「ぱ」「た」「か」など口の中に圧力を必要とする音が弱くなったりすることがあります。
鼻から息が漏れる「鼻漏出」がみられることもあります。
口の中の圧力が発音には重要
「ぱ」「た」「か」などを発音するときには、一度口の中に息をため、その圧力を利用して音をつくります。
「さ」などの摩擦音でも、細い隙間から息を流す必要があります。
鼻咽腔閉鎖が十分でないと息が鼻へ逃げてしまい、口の中に必要な圧力をつくりにくくなります。
その結果、本来の場所では音をつくりにくくなることがあります。
本来とは違う場所で音をつくることがある
口の中で十分な圧力をつくれない場合、子どもが何とか音をつくろうとして、本来とは異なる場所を使って発音することがあります。
こうした発音方法が繰り返されると、その方法が習慣として定着する場合があります。
代表的な異常構音として、
- 声門破裂音
- 咽頭摩擦音
- 咽頭破裂音
- 口蓋化構音
などがあります。
声門破裂音とは?
声門破裂音とは、本来は口の中でつくる音を、のどの奥にある声門付近を使ってつくる発音です。
例えば、本来「た」「か」などとして発音する音を、のどで詰めるような音としてつくることがあります。
口蓋裂などに伴う代償的な構音としてみられることがあります。
正しい構音位置とは異なる場所を使っているため、構音訓練が必要になる場合があります。
咽頭摩擦音とは?
咽頭摩擦音は、本来よりも奥の咽頭付近で狭めをつくり、摩擦を起こして発音する方法です。
「さ行」など、本来は口の前方でつくられる音の代わりとして使われることがあります。
独特の摩擦音として聞こえることが特徴です。
口蓋化構音とは?
口蓋化構音とは、本来よりも舌の奥を使って音をつくる異常構音です。
「た行」「さ行」などでみられることがあります。
口蓋裂のある子どもにみられることがありますが、口蓋裂のない子どもにもみられる場合があります。
そのため、口蓋化構音があるだけで器質性構音障害と判断するわけではありません。
手術をすれば発音も自然に治る?
口蓋裂などでは、必要に応じて手術によって口腔内の形態や鼻咽腔閉鎖機能の改善を図ります。
しかし、形態的な問題が改善すれば、必ずすぐに発音も改善するとは限りません。
手術前から本来とは異なる方法で音をつくっていた場合、その発音方法が習慣として残ることがあります。
このような場合には、手術後に構音訓練を行い、正しい音のつくり方を身につけていくことがあります。
歯並びやかみ合わせも発音に関係する?
歯やあごも発音に関係しています。
特に「さ行」などでは、舌と歯の位置関係が重要です。
かみ合わせや歯列の状態によって、舌を適切な位置に置きにくかったり、息の通り道が変化したりして、発音に影響することがあります。
ただし、歯並びが悪いからといって必ず発音に問題が起こるわけではありません。
実際の構音と口腔内の状態を合わせて判断することが重要です。
舌の形や動きが関係することもある
舌は、多くの音をつくるために重要な器官です。
舌の形態や可動範囲に問題がある場合、特定の音をつくりにくくなる可能性があります。
例えば舌小帯が短いことを心配する保護者もいますが、舌小帯が短いだけで必ず構音障害になるわけではありません。
実際に舌をどの程度動かせるのか、どの音に影響しているのかを確認して判断する必要があります。
発音だけで判断しないことが大切
器質性構音障害では、発音の状態だけでなく、口腔内の形態や機能を確認することが重要です。
例えば、
- 口蓋の形
- 舌の状態
- 歯列やかみ合わせ
- 軟口蓋の動き
- 鼻咽腔閉鎖機能
- 鼻からの息漏れ
などを確認します。
必要に応じて、医師や歯科医師などと連携して詳しく評価します。
言語聴覚士はどのように評価する?
言語聴覚士(ST)は、絵を見て名前を言ってもらったり、会話を聞いたりしながら構音を評価します。
例えば、
- どの音を間違えているか
- どのような誤り方をしているか
- 本来とは異なる場所で音をつくっていないか
- 鼻に息が漏れていないか
- 声が鼻にかかっていないか
- 舌や唇の動き
- 会話全体の聞き取りやすさ
などを確認します。
器質的な問題が疑われる場合には、医師や歯科医師などによる評価と合わせて考えることが重要です。
構音訓練では何をする?
構音訓練が必要な場合は、子どもの発音の特徴に合わせて進めます。
例えば、
- 正しい構音位置を覚える
- 舌の位置を確認する
- 適切な方向へ息を出す
- 一つの音を練習する
- 単語の中で練習する
- 文の中で練習する
- 会話の中で使えるようにする
といったように段階的に進めます。
ただし、鼻咽腔閉鎖機能などに問題が残っている場合、構音訓練だけでは改善が難しいことがあります。
そのため、訓練を始める前に発音するための構造や機能が整っているかを確認することが非常に重要です。
家庭で無理に練習しない
発音が気になると、保護者は「もっと舌を前に出して」「何度も言ってみて」など、家庭で練習させたくなるかもしれません。
しかし、器質性構音障害では、単純に発音を繰り返すだけでは改善しない場合があります。
また、正しい方法が分からないまま繰り返すと、誤った発音方法をさらに定着させる可能性があります。
家庭での練習が必要な場合は、言語聴覚士などから具体的な方法を教えてもらいましょう。
医療機関との連携が重要
器質性構音障害では、言語聴覚士だけで対応するのではなく、原因によってさまざまな専門職との連携が必要になります。
例えば、
- 耳鼻咽喉科医
- 形成外科医
- 歯科医師
- 歯科矯正医
- 口腔外科医
- 言語聴覚士
などです。
口蓋裂などでは、成長に合わせて長期間にわたって複数の専門職が関わることがあります。
いつ相談すればいい?
子どもの発音について、
- 鼻にかかった声が目立つ
- 発音すると鼻から息が漏れる
- 独特の発音がある
- 口蓋裂などがある
- 口や舌の形が気になる
- 家族以外にはことばが伝わりにくい
- 本人が発音を気にしている
といった場合は、専門家へ相談してみましょう。
口腔内の形態的な問題が疑われる場合には、構音訓練だけを始めるのではなく、まず原因を確認することが大切です。
まとめ
器質性構音障害とは、舌、唇、歯、あご、口蓋など、発音に関係する器官の形態や構造上の問題によって、正しい音をつくることが難しくなる状態です。
子どもでは口唇裂・口蓋裂などに伴ってみられることがあり、鼻咽腔閉鎖機能が十分でない場合には、開鼻声や鼻漏出、口腔内圧を必要とする音の弱さなどがみられることがあります。
また、声門破裂音や咽頭摩擦音、口蓋化構音など、本来とは異なる場所で音をつくることもあります。
大切なのは、発音だけを繰り返し練習するのではなく、まず発音に必要な形態や機能を確認することです。
医師、歯科医師、言語聴覚士などが連携し、原因や発音の特徴に合わせて必要な治療や構音訓練を考えていきます。

