聞こえにくい家族との上手な会話のコツ
「何度も言い直しているのに伝わりません。」
「大きな声で話しているのに、聞き間違えてしまいます。」
家族に難聴があると、毎日の会話ですれ違いが起こることがあります。
聞こえにくい方との会話では、単純に声を大きくすればよいとは限りません。
話しかける位置、話す速さ、周囲の環境などを少し工夫するだけでも、言葉が伝わりやすくなることがあります。
この記事では、聞こえにくい家族との会話で実践したい工夫について、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
① まず本人の注意を引いてから話す
聞こえにくい方へ、突然後ろから話しかけても、最初の言葉を聞き逃してしまうことがあります。
話し始める前に、
- 名前を呼ぶ
- 視界に入る
- 軽く手を振る
などして、本人がこちらを見ていることを確認してから話しましょう。
「ねえ、明日の病院なんだけど……」というように、会話が始まることを知らせてから話すだけでも、聞き取りやすくなります。
② 正面から顔を見せて話す
聞こえにくい方は、耳から入る音だけでなく、話している人の
- 口の動き
- 表情
- 視線
- ジェスチャー
なども手掛かりにして会話を理解しています。
そのため、後ろや別の部屋から話しかけるより、できるだけ正面から顔を見せて話すことが大切です。
マスクなどで口元が見えない場合は、いつも以上にはっきり話すことを意識しましょう。
③ 大声より「はっきり・ゆっくり」
聞こえにくいと、「もっと大きな声で話せばよい」と思われがちです。
しかし、必要以上に大声で話すと、かえって音が聞き取りにくくなる場合があります。
大切なのは、適度な声量で、はっきり、少しゆっくり話すことです。
ただし、一音ずつ極端に区切って話す必要はありません。
自然なリズムを保ちながら、少しゆっくり話してみましょう。
④ 短く分かりやすく伝える
一度にたくさんの内容を伝えると、途中で聞き取れなかった部分があるだけで、話全体が分からなくなることがあります。
例えば、「明日の10時に病院へ行って、その後スーパーに寄って、お昼までには帰ってくるから」ではなく、
「明日は10時に病院へ行きます」「病院の後にスーパーへ寄ります」と分けて伝えると、理解しやすくなります。
⑤ 聞き取れなかったら言い換える
本人から、「もう一度言って」と言われたとき、同じ言葉を何度も繰り返していませんか?
一度聞き取れなかった言葉は、同じように繰り返しても聞き取れないことがあります。
例えば、「夕食はカレーだよ」が伝わらなければ、「今日の夜ご飯はカレーだよ」のように、別の言葉を加えたり、言い換えたりすると伝わりやすくなることがあります。
⑥ 話題を最初に伝える
突然話し始めるより、何について話しているのか分かっている方が、聞き取った内容を推測しやすくなります。
例えば、
「明日の病院のことだけど」
「今日の夕食についてだけど」
「孫から電話があったんだけど」
など、最初に話題を伝えます。
これだけでも、その後の会話を理解しやすくなります。
⑦ テレビや生活音を小さくする
難聴があると、話し声と周囲の雑音を聞き分けることが難しくなる場合があります。
家庭でも、
- テレビ
- ラジオ
- 換気扇
- 掃除機
- 食器の音
などが、会話を邪魔することがあります。
大切な話をするときは、テレビを消すなどして、できるだけ静かな環境をつくりましょう。
⑧ 明るい場所で話す
意外と重要なのが、部屋の明るさです。
聞こえにくい方は、相手の口元や表情も手掛かりにしています。
暗い場所や逆光では、顔が見えにくくなります。
できるだけ明るい場所で、本人から顔が見える位置に座って話しましょう。
⑨ 大切な内容は文字でも伝える
日時や場所、薬の飲み方、予定など、間違えると困る情報は、音声だけに頼らないことも大切です。
例えば、
- メモ
- ホワイトボード
- スマートフォン
- LINE
- カレンダー
などを活用します。
「聞いて覚えてもらう」だけではなく、後から確認できる形にしておくと安心です。
⑩ 複数人で同時に話さない
家族が集まると、複数の人が同時に話してしまうことがあります。
難聴がある方にとって、「誰が話しているのか」を探しながら内容を理解することは大きな負担になります。
できるだけ、一人ずつ順番に話すことを意識しましょう。
話す人が手を挙げたり、本人の方を向いてから話したりするのも有効です。
「聞こえた?」だけでは確認しにくい
大切な内容を伝えた後、「聞こえた?」と尋ねるだけでは、正しく理解できているか分からないことがあります。
特に重要な予定などでは、「病院は何時だった?」「明日はどこへ行くんだっけ?」など、内容を一緒に確認すると安心です。
ただし、テストするような雰囲気にならないよう注意しましょう。
聞き返しやすい雰囲気をつくる
本人が、「もう一度言って」「今のところが分からなかった」と言えることも大切です。
聞き返すたびに家族が嫌な顔をすると、本人は次第に聞き返さなくなることがあります。
その結果、分かったふりをして、会話から離れてしまうこともあります。
聞き返されたら、「どこが聞こえなかった?」と確認しながら、伝え方を変えてみましょう。
補聴器を使っていても会話の工夫は必要
補聴器を装用しているからといって、すべての言葉が完全に聞き取れるわけではありません。
特に、騒がしい場所や、複数人での会話では、補聴器を使用していても聞き取りにくいことがあります。
補聴器と、話し方や環境の工夫を組み合わせることが大切です。
家族だけが頑張りすぎない
聞こえにくい家族との会話では、周囲の配慮が重要です。
しかし、家族だけがすべてを背負う必要はありません。
本人も、
- 補聴器を適切に使用する
- 聞こえなかったことを伝える
- 静かな場所への移動をお願いする
- 必要に応じて文字で確認する
など、自分から伝えることが大切です。
本人と家族の両方が少しずつ工夫することが、長く続けられるコミュニケーションにつながります。
言語聴覚士ができる支援
言語聴覚士(ST)は、本人の聞こえ方を確認しながら、家族に対しても伝わりやすい話し方を提案します。
例えば、「大きな声にするより、少しゆっくり話した方がよい」「右側から話しかけた方が聞き取りやすい」など、一人ひとりの聞こえに合わせて方法を考えます。
補聴器や人工内耳の活用と合わせて、家庭で無理なく続けられるコミュニケーション方法を見つけていくことが大切です。
少しの工夫で会話は変わる
聞こえにくい家族との会話では、特別な技術が必要なわけではありません。
「顔を見て話す」「話題を最初に伝える」「テレビを消す」といった小さな工夫でも、聞き取りやすさが変わることがあります。
本人が頑張って聞くことだけに頼らず、家族みんなで「伝わりやすい環境」をつくることを意識してみましょう。
まとめ
聞こえにくい家族と会話するときは、大声で話すだけではなく、正面から顔を見せる、少しゆっくりはっきり話す、話題を最初に伝える、周囲の雑音を減らすなどの工夫が大切です。
また、一度で伝わらない場合は同じ言葉を繰り返すだけでなく、別の表現へ言い換えてみましょう。大切な予定は文字でも残しておくと安心です。
本人と家族がお互いに無理なく工夫し、「聞き返しても大丈夫」と思える環境をつくることが、毎日の会話を続けるための大切なポイントです。

