家族が難聴を理解することの大切さ
「何度も聞き返されると、ついイライラしてしまいます。」
「家族のテレビの音がどんどん大きくなっています。」
家族に難聴があると、本人だけでなく、一緒に暮らす家族もさまざまな困りごとを感じることがあります。
特に難聴は外見から分かりにくいため、
「ちゃんと聞いていない」
「何度言っても分かってくれない」
「都合の悪いことだけ聞こえない」
などと誤解されてしまうことがあります。
しかし、難聴について家族が正しく理解すると、こうしたすれ違いを減らし、本人も家族もコミュニケーションを取りやすくなります。
この記事では、家族が難聴を理解することの大切さについて、言語聴覚士がわかりやすく解説します。
難聴は「音が小さく聞こえる」だけではない
難聴というと、「音量を大きくすれば聞こえる」と思われることがあります。
しかし、実際の聞こえ方はそれほど単純ではありません。
例えば、
- 声は聞こえるけれど言葉が分からない
- 高い音だけ聞こえにくい
- 騒がしい場所では急に聞き取りにくくなる
- 複数の人が同時に話すと分からない
- 早口になると理解しにくい
など、人によってさまざまです。
そのため、「聞こえているようだから大丈夫」とは限りません。
「聞こえる」と「分かる」は違う
家族にぜひ知っておいてほしいのが、音が聞こえることと、言葉の内容が分かることは同じではないということです。
例えば、「今日は○○へ行きます」という声そのものは聞こえていても、一部の音が聞き取れず、
「今日は……へ行きます」のように感じていることがあります。
本人は、聞こえた音や会話の流れから内容を推測しながら理解していることもあります。
聞き間違いは「ちゃんと聞いていない」からではない
難聴があると、似た音を聞き間違えることがあります。
家族からすると、「さっき説明したでしょう」「ちゃんと聞いていた?」と言いたくなることもあるでしょう。
しかし、本人は集中して聞いていても、聞き取れないことがあります。
聞き間違いを責めるのではなく、「聞こえにくかったのかもしれない」と考えることが大切です。
聞くこと自体が疲れることもある
聞こえにくい方は、会話を理解するために大きな集中力を使っていることがあります。
聞こえなかった部分を、表情や口の動き、前後の文脈などから推測しながら会話についていくためです。
そのため、長時間の会話や大人数での集まりでは、非常に疲れてしまうことがあります。
「最近、人と話したがらなくなった」という場合も、単に会話が嫌になったのではなく、聞き取ることに疲れている可能性があります。
難聴によって会話が減ることがある
聞き返すことが続くと、本人は、「また聞き返したら迷惑かな」「何度も聞くのが恥ずかしい」と感じることがあります。
その結果、分からなくても分かったふりをしたり、会話そのものを避けたりすることがあります。
家族との会話が少なくなり、外出や人との交流まで減ってしまう場合もあります。
だからこそ、安心して「もう一度言って」と言える家庭環境をつくることが大切です。
家族のストレスにも目を向けよう
難聴への配慮というと、本人だけを支えるものと思われがちです。
しかし、家族にも負担がかかることがあります。
例えば、
- 何度も同じことを説明する
- テレビの音量が大きい
- 話しかけても返事がない
- 大切な予定を聞き間違える
といったことが続けば、家族が疲れてしまうこともあります。
家族が我慢し続けるのではなく、補聴器やコミュニケーション方法などを活用して、本人と家族の両方が負担を減らせる方法を考えることが重要です。
「年だから仕方がない」で終わらせない
高齢になると聞こえにくくなる方は増えます。
しかし、「年だから仕方がない」とそのままにしてしまうのはおすすめできません。
難聴の原因によっては、治療が必要な場合があります。
また、補聴器などを活用することで、コミュニケーションが改善する可能性もあります。
家族が聞こえの変化に気付いたら、耳鼻咽喉科の受診を勧めてみましょう。
補聴器をつけても完全に元どおりになるわけではない
家族が誤解しやすいことの一つが、「補聴器をつけたから、もう普通に聞こえる」という考えです。
補聴器は聞こえを補う大切な機器ですが、装用すればすべての音声が完全に聞き取れるようになるわけではありません。
騒がしい場所や複数人での会話では、補聴器を使用していても聞き取りにくいことがあります。
補聴器だけに頼るのではなく、周囲の話し方や環境を整えることも大切です。
家族が難聴を体験してみることも役立つ
本人から、「聞こえにくい」と説明されても、実際の感覚を理解することは簡単ではありません。
医療機関などでは、難聴の聞こえ方を疑似体験できる音源などが使われることもあります。
こうした体験を通して、「単純に音が小さくなるだけではない」
と理解すると、本人の困りごとをイメージしやすくなります。
家族ができること
難聴について理解したうえで、
家庭では、
- 正面から話しかける
- 話し始める前に本人の注意を引く
- ゆっくり、はっきり話す
- テレビなど周囲の音を小さくする
- 大切な内容は文字でも伝える
- 聞き返しても責めない
といった工夫が役立ちます。
大声で話すことだけが、聞こえへの配慮ではありません。
「どうすればこの人に伝わりやすいか」を一緒に考えることが大切です。
言語聴覚士ができる支援
言語聴覚士(ST)は、難聴のある本人だけでなく、家族への支援も行います。
聞こえの状態を確認しながら、
- どのような場面で聞き取りにくいのか
- どのように話すと伝わりやすいのか
- 補聴器をどのように活用するか
- 家庭環境をどのように整えるか
などを一緒に考えます。
本人と家族の双方が無理なくコミュニケーションできる方法を見つけていくことが重要です。
「聞こえない」を家族みんなの問題として考える
難聴は、本人だけが努力すれば解決する問題ではありません。
本人が補聴器を使ったり聞き返したりすることに加えて、周囲が伝え方を工夫することで、コミュニケーションは大きく変わります。
家族が難聴について理解することは、特別扱いすることではありません。
本人と家族がお互いに無理をせず、会話を続けていくための第一歩です。
まとめ
難聴は、単に音が小さく聞こえるだけではありません。声は聞こえていても言葉が分からなかったり、騒がしい場所では聞き取りが難しくなったりすることがあります。
こうした特徴を家族が知らないと、「話を聞いていない」「何度言っても分からない」と誤解し、お互いにストレスを感じる原因になることがあります。
難聴を本人だけの問題にせず、家族も聞こえ方の特徴を理解し、話し方や環境を工夫することが大切です。
本人と家族がお互いの負担を減らしながら、安心してコミュニケーションできる環境をつくっていきましょう。

