病識低下がある人との接し方
高次脳機能障害のある方の中には、
- 「自分は何も困っていない」
- 「リハビリはもう必要ない」
- 「仕事にもすぐ戻れる」
と話す方がいます。
一方で、ご家族は、
- 「明らかに忘れっぽいのに本人は気づいていない」
- 「失敗しても気にしていないように見える」
- 「何度説明しても障害を認めようとしない」
と戸惑うことがあります。
このような状態は、病識低下と呼ばれる高次脳機能障害の症状の一つである可能性があります。
病識低下があると、ご本人は自分の障害を十分に理解できず、必要な支援を受け入れにくくなることがあります。
この記事では、病識低下がある方への接し方について解説します。
病識低下は「認めたくない」のではなく「気づけない」ことがある
病識低下について、「現実を受け入れたくないだけでは?」と思われることがあります。
もちろん、発症直後にはショックから障害を受け入れられない時期もあります。
しかし、高次脳機能障害の病識低下では、
脳の障害によって、自分の状態を客観的に把握することが難しくなっている場合があります。
つまり、「認めない」のではなく、「気づくこと自体が難しい」という状態なのです。
まずは、この違いを理解することが大切です。
無理に「障害がある」と説得しない
ご家族は、「ちゃんと自覚してほしい」という思いから、
何度も説明したくなることがあります。
しかし、「あなたは障害があるんだから。」「何度失敗したら分かるの?」と強く伝えても、
病識低下がある方には十分伝わらないことがあります。
かえって反発したり、自信を失ったりすることもあります。
無理に説得するよりも、本人が体験を通して少しずつ気づけるよう支援することが大切です。
失敗を責めない
病識低下がある方は、失敗してもその原因に気づきにくいことがあります。
例えば、約束を忘れてしまっても、「相手が悪い」「たまたまだった」と考えてしまうこともあります。
そこで責めても、症状が改善するわけではありません。「どうして忘れたんだ!」ではなく、
「次はどうすれば忘れにくくなるかな?」と一緒に工夫を考える方が前向きです。
「できること」から取り組む
病識低下がある方に、いきなり難しい課題を勧めても、
必要性を感じてもらえないことがあります。
そのため、まずは本人が興味を持てることや、取り組みやすいことから始めましょう。
例えば、
- 趣味を続ける
- 家事を担当する
- 散歩をする
などです。
その中で困りごとが見つかったときに、「こういう方法もありますよ。」と提案する方が受け入れられやすくなります。
本人の気持ちを尊重する
ご本人も、発症前の自分との違いに戸惑っていることがあります。
病識低下があっても、「思うようにできない」
という感覚を持っている方も少なくありません。
そのため、頭ごなしに否定するのではなく、
「そう思っているんですね。」「困ることはありませんか?」と気持ちを聞く姿勢が大切です。
工夫を「障害対策」と言わない方法もある
病識低下がある方は、「障害だからメモを書きましょう。」と言われると抵抗を感じることがあります。
そのような場合は、
「予定が多いからメモを使うと便利ですよ。」
「私も忘れないようにカレンダーを使っています。」
というように、生活を便利にする工夫として提案すると受け入れられやすいことがあります。
家族だけで抱え込まない
病識低下への対応は、ご家族だけでは難しいことがあります。
特に、
- 運転を続けたい
- 仕事へすぐ戻りたい
- 一人暮らしをしたい
など、安全に関わる判断では、家族だけで説得しようとすると対立が深まることもあります。
そのような場合は、主治医やリハビリスタッフなど第三者から説明してもらう方が受け入れられやすいことがあります。
安全に関わることは妥協しない
病識低下があっても、安全に関わる場面では適切な対応が必要です。
例えば、
- 自動車の運転
- 火の取り扱い
- 高所での作業
などは、ご本人が「大丈夫」と思っていても危険な場合があります。
そのようなときは、専門職とも相談しながら、安全を最優先に考えましょう。
少しずつ気づきを促す
病識は、一度に身につくものではありません。
リハビリや生活経験を重ねる中で、少しずつ自分の得意・不得意に気づいていく方もいます。
そのため、焦らず、
- 「ここは一人でできましたね。」
- 「ここはメモがあると安心ですね。」
と一緒に振り返ることが大切です。
成功と課題の両方を共有することで、ご本人自身の気づきにつながることがあります。
家族も自分を責めない
病識低下がある方との生活では、「どうして分かってくれないのだろう。」
とご家族が疲れてしまうことがあります。
しかし、病識低下はご家族の接し方が悪いから起こるものではありません。
困ったときは、主治医や言語聴覚士、作業療法士、高次脳機能障害支援拠点などに相談し、
一人で抱え込まないことが大切です。
まとめ
病識低下は、高次脳機能障害によって自分の障害を客観的に理解することが難しくなる症状です。
そのため、無理に説得したり責めたりするのではなく、ご本人の気持ちを尊重しながら、生活の中で少しずつ気づきを促す関わりが大切です。
また、メモやカレンダーなどの工夫も、「障害対策」ではなく「生活を便利にする方法」として提案すると受け入れられやすい場合があります。
安全に関わることは専門職とも相談しながら対応し、ご家族だけで抱え込まずに支援を受けることも大切です。

