記憶障害とは?
「何度も同じことを聞いてしまう」「約束を覚えていられない」「買い物に行くと何を買うか忘れる」
脳の病気や事故の後、このような“物忘れ”が生活に大きな影響を与えることがあります。
これは努力不足でも性格の問題でもなく、脳の記憶システムに生じた障害によるものです。
高次脳機能障害における「記憶障害」の特徴や種類、支援方法について、言語聴覚士の視点からわかりやすく解説します。
1. 記憶障害とは?
記憶障害とは、脳損傷などの影響で「覚える」「思い出す」の機能が低下した状態を指します。特に多く見られるのは、
- 新しいことを覚えにくい
- 忘れてしまうのが早い
- 同じ質問を何度もしてしまう
といった特徴です。
記憶は目に見えない機能であるため、周囲から「ちゃんと聞いていないのでは?」などと誤解されやすいのが大きな負担になります。
2. 記憶には複数の種類がある
ひとことで「覚える」と言っても、記憶にはいくつかの種類があります。どこに障害が出ているかによって症状は異なります。
① 即時記憶(短い時間の記憶)
数秒〜数十秒程度の、短い時間だけ保持する記憶です。
例:
- 7桁の数字を聞いてそのまま言い返す
- 会話の直前の内容を理解する
障害があると…
- 会話の内容を追いにくい
- 少し話が長くなるとついていけない
② 近時記憶(新しい出来事を覚える力)
最近起こったこと、新しく学んだことを記憶する力です。
高次脳機能障害で特に問題となりやすい領域です。
例:
- 今日の予定を覚える
- さっき聞いた指示を覚えておく
- 新しく買った家電の使い方を覚える
障害があると…
- さっきの出来事を忘れてしまう
- 同じ話を何度もする
- 約束や予定を守れない
③ 展望記憶(未来の予定を覚えておく力)
「〇時になったら〜する」「帰りに牛乳を買う」など、“未来の行動”を覚えておく記憶です。
障害があると…
- 約束の時間を忘れる
- 買い物で必要なものを買い忘れる
- ルーチンが抜けやすい
④ エピソード記憶(個人的な経験)
旅行の思い出や、その日の出来事など、経験に基づく記憶です。
障害があると…
- 当日の出来事を覚えていない
- 過去の出来事が曖昧になる
3. 記憶障害があると日常生活で起こりやすい困りごと
記憶障害は、生活にさまざまな影響を与えます。
- 約束を忘れてしまう
- 会話の内容を何度も尋ねる
- 家事をしている途中で手が止まる
- 記憶が曖昧なため、話が食い違う
- 買い物で必要なものを忘れる
- 職場での抜けやミスが増える
本人は悪気がなくても、周囲との摩擦につながることが多いのが特徴です。
4. なぜ“同じ質問”を繰り返すの?
家族がもっとも困りやすい場面の1つに、
「さっきも答えたのに、また聞かれる」
という状況があります。
これは、記憶が“保存されない”“保持されない”ために起こる現象で、本人には「初めて聞いた質問」と感じられる場合があります。
責めたり叱ったりしても改善するものではなく、適切な支援が必要です。
5. 記憶障害への支援方法
記憶障害は完全に治らない場合もありますが、環境調整や外部記憶の活用により、生活の負担を大きく軽減できます。
① 外部記憶(補助手段)の活用
もっとも効果的なのは、「忘れても大丈夫な仕組み」を整えることです。
- メモ帳・手帳
- スマホのアラーム
- カレンダーアプリ
- ホワイトボード
- 付箋
ポイントは「思い出す」より「書く/セットする」を習慣化すること。
② 一目でわかる環境を作る
- 予定表を目立つ位置に貼る
- 曜日・時間で行動をルーチン化する
- 冷蔵庫や玄関にメモを貼る
- 家電の手順を写真入りで掲示する
環境を「思い出しやすい状態」に整えることが重要です。
③ 繰り返し練習(記憶の補強)
- 同じ手順を繰り返し練習する
- 覚える内容を視覚化する
- 少しずつ記憶を「定着」させる
必要に応じて言語聴覚士がサポートします。
④ 家族のかかわり方
記憶障害では、周囲の理解が何より重要です。
- 何度質問されても、落ち着いて答える
- 大事な予定は書いて共有する
- 「どうして覚えていないの?」と言わない
- 一度にたくさんの情報を伝えない
トラブルを防ぎながら、安心して生活できる環境をつくることができます。
6. 記憶障害は回復できる?
発症から数ヶ月〜1年は特に回復しやすい時期ですが、慢性期でも習慣づけや環境調整により生活は大きく改善します。
「覚える力」を直接戻すことは難しくても、
「覚えられなくても生活できる仕組み」を整えることで、本人の自立度は大きく高まります。
まとめ:記憶障害は“できる仕組み”の工夫で大きく改善できる
記憶障害は、外から見てもわかりにくく、本人の責任にされやすい障害です。
しかし、記憶のしくみを理解し、環境調整や外部記憶を活用することで、生活上の困りごとは確実に減らせます。
周囲の理解と適切な工夫が、本人の安心感と自信につながります。

