遂行機能障害とは?

脳に障害を受けた後、「何から始めれば良いかわからない」「家事が進まない」「仕事の段取りが組めない」といった困りごとが生じることがあります。
これらは性格や怠けではなく、遂行機能(すいこうきのう)の問題によって引き起こされる症状です。

遂行機能は、私たちが日常生活の中で自然に使っている能力であり、障害されると生活全般に大きな影響が出ます。

この記事では、言語聴覚士の視点から「遂行機能障害」についてわかりやすく解説します。


1. 遂行機能とは?

遂行機能とは、物事を計画し、実行し、問題に対処する力のことです。
具体的には、以下のような一連の能力を指します。

  • 目標を立てる
  • 手順を考える
  • 必要な情報を集める
  • 優先順位をつける
  • 柔軟に対応する
  • 実行しながら確認する

普段は無意識のうちに行っていますが、脳の前頭葉が障害されるとこの機能が低下し、生活にさまざまな困難が生じます。


2. 遂行機能障害の特徴

遂行機能障害の方に見られやすい特徴を、日常生活場面の例とともに紹介します。


① 何から始めれば良いかわからない

例:

  • 料理を始めても手が止まる
  • 部屋の片付けが進まない
  • 次に何をすれば良いのか分からなくなる

② 物事の優先順位がつけられない

例:

  • 重要な予定を後回しにしてしまう
  • 締め切りが守れない
  • 必要のない作業に時間を使ってしまう

③ 柔軟な対応が苦手になる

例:

  • 予定変更にパニックになる
  • 他の人の意見を受け入れにくい
  • 想定外のことが起こると混乱する

④ 同時に複数のことができない(マルチタスクが困難)

例:

  • 料理しながら会話できない
  • 会議中にメモが取れない
  • 子どもの相手をしながら家事ができない

⑤ 行動のモニタリングが苦手(自分で確認できない)

例:

  • やりかけの作業を放置する
  • 最後の確認をしないためミスが増える
  • 計画がズレても修正できない

3. 家族や周囲が誤解しやすいポイント

遂行機能障害は、外見からは分かりにくいため、以下のような誤解を受けやすい症状です。

  • 「やる気がない」
  • 「性格がだらしない」
  • 「真面目に取り組んでいない」

しかし本人は「分かっていてもできない」「どう始めればいいのかわからない」と苦しんでいることが多く、責めたり叱ったりすると症状が悪化することもあります。


4. 遂行機能障害の原因

脳の前頭葉は、計画性や判断力に深く関わる領域です。
そのため、以下のような病気や事故で損傷を受けると遂行機能が低下することがあります。

  • 外傷性脳損傷(交通事故、転倒など)
  • 脳血管疾患(脳出血・脳梗塞)
  • 脳腫瘍や手術後
  • 低酸素脳症
  • 感染症や炎症性疾患

5. 遂行機能障害への支援方法

遂行機能障害は、適切な工夫・支援によって生活を大きく改善できます。
ここでは家庭でも取り入れやすい方法を紹介します。


① 作業を分解し、ステップ化する

「片付けをする」ではなく、
1. ゴミを捨てる → 2. 机の上を整える → 3. 掃除機をかける
など、手順を細かくすると取り組みやすくなります。


② 見える化(視覚的支援)を使う

  • ホワイトボードで今日の予定を書く
  • 手順書を写真つきで掲示
  • タスクチェックリストを使用
  • カレンダーで予定を共有

視覚的に情報を確認できる環境がとても有効です。


③ 作業環境を整える

  • 机に必要なものだけを置く
  • 家事の道具を使う場所にまとめる
  • 迷いやすい場面を減らすレイアウトにする

環境が整うと、迷う時間が減り、達成感が増えます。


④ 外部記憶を活用する

  • スマホのリマインダー
  • メモやToDoアプリ
  • 付箋を使った進行管理

「覚える」より「記録する・見返す」習慣をつける方が効果的です。


⑤ 専門職によるリハビリ

言語聴覚士や作業療法士による支援では、

  • タスク分析
  • 手順書の作成
  • シミュレーション訓練
  • 問題解決力の訓練

などを行い、実生活に合わせたアプローチで改善を目指します。


6. 家族の関わり方のポイント

遂行機能障害では、家族のサポートがとても大切です。

  • 一度に複数の指示を出さない
  • 「どうしたら良い?」と聞かれたら、手順を簡潔に伝える
  • できた部分を褒めて成功体験を作る
  • 予定変更は事前に丁寧に説明する

責めず、サポートしながら本人の自信を保つことが重要です。


7. 遂行機能障害は改善する?

急性期〜回復期にかけて大きく改善することがあります。
慢性期でも、環境を整えたり、手順書を活用したり、支援スキルを身につけることで生活の質は大きく向上します。

完全に「前の自分」に戻るのが難しい場合もありますが、工夫によってできることは確実に増えていきます。


まとめ:遂行機能障害は“段取りの見える化”と環境の工夫が鍵

遂行機能障害は、やる気や性格の問題ではなく、脳の機能の問題です。
しかし、手順を見える形にしたり、環境を整えたり、適切な支援を取り入れることで、日常生活は大きく改善できます。

本人が安心して生活できるように、周囲の理解と工夫が何より大切です。

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