感覚性失語(ウェルニッケ失語)とは?

感覚性失語(ウェルニッケ失語)は、言葉の理解に大きな困難を抱える失語症の一種です。自分は流暢に話しているつもりでも、相手には意味不明な発話になりがちで、聞いている言葉も十分に理解できないため、コミュニケーションに大きな支障をきたします。


1. 症状:流暢だけど意味が伝わらない話し方

ウェルニッケ失語の主な特徴は、「流暢(りゅうちょう)な発話」と「理解力の著しい低下」です。

  • 発話の流暢さ:
    • スムーズに、そして比較的速いスピードで言葉を発することができます。一見すると普通に話しているように見えます。
  • 「ジャーゴン(Jargon)」と呼ばれる話し方:
    • 音の誤り(例:「いぬ」が「うに」になる)や、意味のわからない単語(語性錯語:例:「鉛筆」が「シャープペン」になる、または全く関係のない「バナナ」になる)が多数混じり、全体として意味をなさない言葉の羅列(ジャーゴン)になることがあります。
    • まったく意味のない新造語を話すこともあります。
  • 理解力の著しい低下:
    • 話しかけられた言葉や指示の内容をほとんど理解できません。簡単な質問でも理解が難しく、会話の意図が通じません。
  • 復唱の困難:
    • 言われた言葉をそのまま繰り返す「復唱」も困難です。音として正確に認識し、再現することが難しいためです。
  • 病識の欠如:
    • 自分が話している言葉が意味をなしていないことや、相手の言葉を理解できていないことに気づきにくい(病識がない)傾向があります。そのため、周囲とのコミュニケーションのズレに混乱したり、不機嫌になったりすることもあります。

最大の問題は、「言葉を理解できない」という点です。話は流暢なので、一見すると「わがままを言っている」「わざと無視している」と誤解されることもあり、ご本人も周囲も大きなストレスを抱えることがあります。


2. 原因:脳の「ウェルニッケ野」の損傷

ウェルニッケ失語は、主に左大脳半球の側頭葉にある「ウェルニッケ野」とその周辺領域が損傷を受けることで発生します。

ウェルニッケ野は、聞いた言葉の意味を理解する(言語の受容・解釈)において中心的な役割を担っています。

損傷の原因としては、脳梗塞脳出血などの脳卒中、脳腫瘍、頭部外傷などが挙げられます。


3. 実際の事例

診察室で、犬が吠えている絵を見せられ、医師から「これは何の絵ですか?」と聞かれたウェルニッケ失語の患者さんの発話例:

医師の質問「これは何の絵ですか?」
患者さんの返答例「ああ、これはね、あのね、いつもと違うところに行ったからさ、おなかがすいてきたからね、ちょっとこのおさかなをとってさ、食べないとね、だめなんだよ」

【解説】

流暢に言葉を発していますが、質問とは全く関係のない内容を話しています。単語自体は日本語として成立していますが、全体としての意味が通じません。これは、質問の内容を理解できていないために、自分の頭に浮かんだ言葉を無秩序に発している状態です。

また、もし医師が「お腹は空きましたか?」と尋ねても、この患者さんは別の全く関係のない話をしてしまうかもしれません。これは、言葉の意味を理解する能力が障害されているためです。


ウェルニッケ失語のリハビリテーションでは、言語聴覚士(ST)が中心となり、まずは言葉の理解力を高めるための訓練を行います。簡単な指示の理解から始め、ジェスチャーや絵カードなどを活用して、コミュニケーションの糸口を見つけることが重要です。

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